『学 校』




私は母校である高校の門をくぐった。何年ぶりだろう。

卒業してから初めてだから・・・8年・・・か。



1年生の終わりに、創立10周年記念行事として裏庭にタイムカプセルが埋められた。

それから10年。そのタイムカプセルを掘り出すにあたって、同窓会主催の記念パーティーが

催されるのだ。私は行くのをちょっと迷った。色んな思い出が色褪せてしまわないだろうか?

そんな思いがあったからだ。しかし、幹事役の友人に無理矢理連れてこられた。



久々に会った元クラスメート達。当時と全然変わらない人、すっかり変わって誰だか分から

ない人。卒業以来会った事もない友人も会えば学生時代と変わらず打ち解けた。

そんな中、私は一人の男の人から目が離せないでいた。



----- 飛影君・・・



私は彼の事を好きだった。だが、人を寄せ付けないオーラを発し、なかなか話しかけられなかった。

やっとの事で話しかけても不愛想な返事しかしてくれず、嫌われているんじゃないかといつも落ち

込んだ。・・・だけどやっぱり好きだった。

そんな時、親の仕事の都合で急に彼が転校する事になった。このまま離ればなれになるのは厭で、

何とか想いを伝えたいと思ったが、面と向かって話す勇気もない私に出来たのは、手紙を彼のロッ

カーに入れる事位だった。読んでくれたのかは分からない。もしかしたら読まずに捨てられたかも

知れない。それでも、悔いはなかった。その日は彼がこの学校に来る最後の日、そしてタイムカプ

セルを埋める日だった。そして、彼は転校していった。

彼は誰にも住所を教えていなかったので、(先生は知っていただろうが、聞く勇気もなかった)

それっきりになってしまった。



今彼は仕事でこっちに住んでいるというのを、今日初めて聞いた。たまたま再会した同窓会幹事の

一人が彼を連れてきたらしい。

10年・・・。背が伸びて、決して愛想がいい方とは言えないけど、以前よりは柔らかい表情。

・・・大人になったんだ・・・心臓がキュンとした。



私は大学へ行き、就職し、彼の事は単なる思い出の人になっていった。なっていた筈だった。

何人かの人とも付き合った。だけど、いつも心の何処かに彼が居た。



掘り出されたカプセルの中には、それぞれ10年後の自分に宛てた手紙が入っている筈。

参加者の手に、10年前の自分からの手紙が渡された。その後ビュッフェスタイルのパーティー

が始まり、当時のクラス毎に分かれて賑やかな宴が催された。

誰かが 「順番に手紙を読んでいこう」 と提案し、皆それに賛成した。

無難な内容や個性たっぷりの内容、自分達の手紙にお互い笑ったり頷いたり。私に順番が回り、

10年前の自分は何を書いたのだろうかと期待したが、平凡な内容でちょっとがっかりした。

そして飛影君に順番が回ってきた。私はとっても聞きたかった。好きだった人が書いた手紙を。

彼が封筒を開けようとした時、パーティーの司会者がビンゴゲームの始まりを知らせ、皆そちら

の方に注目をした。飛影君は小さく笑って、手紙の入った封筒をポケットにしまった。

私は司会者を恨んだが、仕方がない。機会を逃してしまった。



パーティーはお開きになり、グループ毎に帰途についた。一人また一人別れていって、最後は

飛影君と二人になった。また心臓がキュンとした。

口数が少ないのは相変わらずだが、それでも社会人になった分以前のように不愛想ではなかった。

当たり障りのない話をしていたが、やっぱり気になるのはあの手紙。



懐かしい思い出の人だから気になるのだろうか? ううん。 違う。

私の中に、ずっと彼がいた。単なる思い出の人なんだからと無意識のうちに封印をしていたけど

今こうして彼と再会し、想いは一気に溢れ出した。

やっぱり、彼が好き・・・・・。



「ねぇ、飛影君。あの手紙だけど何て書いてあったの?」

「別に大した事じゃない。」

「・・・でも・・・・」

「見たいのか?」

「うん・・・」

「好きにしろ。」



飛影君は封を切っていない手紙を私に差し出した。



「開けていいの?」

「あぁ。」



封を開けると、レポート用紙が一枚。

そこに一言、



----10年後のオマエに逢いたい-----



と、だけ書かれてあった。



おまえ?誰?自分の事かしら?



不審に思っていると、封筒の中にもう一つ紙に包まれた小さな物が出てきた。



「これ・・?」

「中身を見てもいいぞ。」

包みを解くと中には、ハートが半分欠けたデザインのペンダント。二つの欠片を合わすとハートに

なるもので、当時恋人同士で持つのが流行っていたのだが、私には見覚えがある。転校の日の手紙

の中に入れたものだ。厚かましいとは思ったけど、私の事を覚えていて欲しい一心だった。



「飛影君?もしかして、このペンダント・・・?」

「10年前、オマエから貰ったものだ。」

「どうしてタイムカプセルになんか・・・」

「あの時・・・・嬉しかった。」

「えっ・・・?」

「引っ越しのゴタゴタで失くしたくなかったから、タイムカプセルに預けておいた。10年後に会える

 のを期待して。そして10年後の今日俺は来た・・・。ま、今頃にそんな事言っても、迷惑な話だろ

 うがな。」



-------飛影君・・・・



「私の手紙も見て。」

「オマエのは、さっき読んでただろ?」



私は自分の封筒を押しつけた。彼は封筒の中の小さな包みに気が付いた。中にはハートの欠片のペン

ダントが入っていた。そして包みの裏には 『10年後、会えるといいナ!』 と。



10年前の思い出が二人を包んだ。

そしてこれからは二人で思い出を作っていく・・・そんな予感がして、二人は微笑んだ。







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