今夜は満月・・・・ はオフィスの窓から見える月を確認してからロッカールームへ行った。 窮屈な制服を着替え、口紅をひいた。いつもの淡い色ではなく紅い口紅。 もしかしたら・・・予感が彼女をそうさせたのであった。 闇の中で このところ、お互い仕事が忙しく会う暇がなかった。 久々のデート。蔵馬もも心待ちにしていた。 どこかで食事でも・・・と考えていたのだが生憎今日は満月の日。 蔵馬が”妖狐”に変わるかも知れない日だ。 そんな時に外で会う訳にも行かない。二人は満月の夜の恒例になりつつある、 彼のマンションでのデートとなった。 いつものように、二人でテイクアウトの料理とワインを買ってマンションへ向かった。 豪華な料理ではないが、が上手に盛りつけるとそこら辺のレストランに負けない位、 立派な物になる。ワイングラスをカチンと鳴らして、二人の時間が始まった。 満月の夜だからといって、蔵馬がいつも妖狐に変わる訳じゃない。しかし、今日は・・・ 月の光が部屋を照らした時、蔵馬の身体の血液が”どくん”と逆流するように感じられた。 同時に、霧で身体が覆われ、それが取り払われた後妖狐の姿に変わっていた。 はもうすっかり慣れていて、驚く事はなかった。しかし、蔵馬と同じように ”どくん”と彼女の心臓も大きく波打った。 妖狐となった蔵馬は、いつもの優しい微笑みではなく、口の端で笑い、獲物を見つけたように を見た。が目をそらした隙に音もなく近寄り、有無をも言わせず抱き締めた。 南野秀一の時の蔵馬は、決して強引な事をせず、優しくそっと抱き締めてくれた。 それが当たり前だと思ってた。だから初めは妖狐蔵馬の強引さに、正直戸惑い、不快にさえ 思った。しかし、いつのまにかそれが当たり前となり、寧ろ快感を感じていた。 荒々しく抱き締められたまま、はふと思い出した。 彼は以前、妖狐の姿を『自分の中の闇の象徴だ』と自嘲するように呟いた事がある。 妖狐の姿が闇の象徴なら、その彼に抱かれている自分もまた、闇だ。そして強く 抱かれれば抱かれる程、深い深い闇へと落ちていく。 それも・・・悪くないかもしれない・・・。 そうして二人は月明かりを浴びながら、いつまでも”闇の中”を漂っていた。 戻る |