『 修行 』




「必ず追い越してみせる!その時、お前は俺を見直すのだ!」



棗にそう宣言したからには、男としては実行あるのみ!と

一人山に籠もった酎は、寝る間も惜しんで修行に勤しんだ。

本来酎は「酔う程に強くなる酔拳」の使い手だが、それ以前の

基本的な体力と妖力を鍛えるため、修行中は酒を絶っていた。

そして数ヶ月・・・

強くなった・・・。と自分でも実感した。

辛い修行を終え、小さな山里へ下り一軒の寂れた酒場へ寄った。



    今日はここで久しぶりに酒を呑み、暖かい布団に眠ろう。

    そして明日には棗の居るあの町へ帰ろう。



カウンターに座り、店主に酒を注文し出された酒を一気に飲み干すと、

フーっと息を吐いた。胃に酒が染み渡り、これまでの疲れが一気に吹き飛んだ。



「お兄さん、イイ飲みっぷりね。」



隣に女が座り、酎を色っぽい目つきで見た。

グラマラスな美人で、こんな田舎の酒場には勿体ない程イイ女だ。



「一緒に呑んでもいいかしら?」

「勿論構わないが、俺なんかと一緒に呑んでもつまらないぜ。」

「あら、そんなことないわ。この町はゴロつきばっかりで、イイ男が

 全然いないんですもの。たまにはお兄さんみたいな、イイ男と呑みたいのよ。」

「なら、いいがな。」



二人はグラスをカチンと鳴らすと、にこりと微笑み酒を呑んだ。

どのくらい呑んだだろうか、夜はすっかり更けきっていた。



「お兄さん、今晩泊まる当てあるの?」

「いや。どこか宿でも探そうかと思ってるが。」

「この町に宿なんて気の利いたモノないわよ。泊まるところがなかったら

 ウチで泊まってってもいいわよ。」



据え膳食わねば男の恥。女の意味してる事はわかった。

女の誘いに心が揺らいだが、酔った頭の奥に棗の姿がチラついた。



「悪いけどやめとくよ。」

「そ、残念。イイ人が待ってるのね。じゃ、今夜はここで飲み明かしましょ。

 改めて、乾杯!」



     惜しいけど、これも修行の内だな・・・



酎は心の中で呟いた。






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