ある夏の出来事 5 「まちにショッピングに出たら、秀一さんにバッタリ会っちゃってー、 なんか運命感じちゃったぁv」 蔵馬の表情にも気付かず、嬉しそうに言う3人娘。 「でもおめーら、昼から来るって言ってたじゃねぇかよ」 疲れたような幽助(あらびっくり)のセリフに、 「そのつもりだったけどぉ、あたしたちあんま役にたたないしね」 「うん。掃除嫌いだし」 なんと、自覚症状があったのか! 「でも秀一さんとは一緒にいたいしね。あたしたちってケナゲ〜」 蔵馬たち3人は、一斉にこっそりため息をついた。ちなみに飛影は分かってない。 とりあえず一通り片付けと掃除が終わり、各部屋に新しいカーテンや ソファカバーを掛けていく。 「最初の日にゃぁいってーどうなる事かと思ったけんど、 こうして見るとけっこうイカすじゃねぇか」 桑原の言うとおり、きれいになった別荘は来た時と同じものとは思えなかった。 翌日 「やっほー、来ったよー♪」 ぼたんを先頭に、螢子と雪菜が別荘へやって来た。 「雪菜さぁんY」 出向かえたのは桑原。 「和真さん。お掃除ご苦労様でした。 螢子さんたちとお弁当を作ってきたので、後で食べませんか?」 お弁当を抱えにっこり笑う雪菜に、すっかり鼻の下が伸びっぱなしの桑原だった。 (友達って女の子だったんだー) (まさかあの中に秀一さんの恋人がいたりしないよね) (あの天然っぼい子は意外にも桑原君の彼女みたいだし。 もしいるとしたら、しっかりしたのとノーテンキそうなのの どちらかよね) (あたしは、どっちも秀一さんの彼女っぽくないと思うなー) こそこそとそんな話しが囁かれているのも知らず、4人は別荘の中へ入った。 その頃、台所では少し早い夕食の準備にてんてこ舞いだった。 「幽助、こっちもお願いしますよ。あ、さん、ちょっとそれ取って下さい。 飛影、これとこれ、切っといて下さいね」 「まったく、なんでオレがそんな事をせねばならんのだ…」 ブツブツ言いながらもキャベツとトマトを放り投げ、刀をひらめかせる。 「飛影さんのその技、何度見てもすごいですね〜」 手に持った皿に、降って来たキャベツの千切りと、トマトの薄切りを 受けとめつつ、が感嘆の声を上げる。 「フン」と鼻を鳴らしつつも、飛影の顔が赤く見えたのは多分気のせいではないだろう。 その時、桑原を先頭に、雪菜たちがダイニングへ入ってきた。 「よぉ、いらっせ〜い。もうすぐ飯できっからよ。その辺すわってろよ」 「やだよ、幽助。食堂へ来たみたいじゃないのよさ。それとも将来、 雪村食堂へ永久就職した時の為の練習かい?」 ぐふふと、笑いながらぼたんが幽助をからかう。 「うっせーぞぼたん!」 「そうよぼたんさん。変な事言わないでよ」 「まあまあ、とにかく疲れたでしょう。座って待ってて下さい」 「それよりさぁ、そこの彼女なにもんなんだい?紹介しておくれよ」 「あ、わたしは…」 が自己紹介をしようとしたところへ、3人娘が入ってきた。 「こんにちはー」 「あ、この人たちが秀一さんのお友達ぃ?」 「よろしくー。あたしたちは…」 さきほど覗いていたコトなどおくびにも出さず、自己紹介を始める。 「秀一さん??…て、あぁ、蔵馬のことだね」 「くらま?」 ぼたんの言葉にくびをひねる3人娘。 「秀一さんはだって、南野秀一でしょぉ?」 「あ、えと、そうなんだけどさぁ」 「蔵馬はあだ名なんですよ」 困って視線を泳がせるぼたんの変わりに、蔵馬が答える。 3人娘はとりあえずそれで納得したらしい。 なんと言っても、蔵馬の言葉だし(笑) 螢子達の作ってきたお弁当と、幽助達が作った料理とで早めの夕食を終わらせ、 一行は別荘の近くにある海岸へ向かう。 ちなみに「ぷらいべーと びーち」ってヤツである。 「ほら見てごらんよ、ちょうど日が沈むとこだよ。きれいだねぇ」 「オレがバイト受けたおかげだかんな。オレに感謝しろよ」 「なんで幽助に感謝しなくちゃならないのよ。 感謝するなら、バイトを持ち掛けてくれた人でしょう?」 「ちぇーっ」 みんなが笑う中、幽助は一人すねていた。 日が完全に沈みきり、持参してきた花火で花火大会を始める。 桑原はもちろん雪菜と。 蔵馬の周りには3人娘がはりつき、 ぼたんは螢子と、幽助で遊んでいる。 必然的に(強引に?)ふたりきりになる、飛影と。 「フン、あんな事をやって何が楽しいんだ?」 飛影が、花火を振りまわして螢子やぼたんを追いかけている幽助を見て言う。 「飛影さんは…花火やらないんですか?」 の言葉に、「やらん」とだけ答える飛影。 そのまましばらく沈黙が続く。 その沈黙を破ったのはだった。 「飛影さん、いつまでここにいるんですか?」 「? ヤツらの花火が終わるまでだが?」 「あ、いえそうじゃなくて、このまちにはいつまでいる予定なんですか?」 「…なぜそんな事を聞く」 「いえ、あの…わたし達も明後日には帰るんですけど、また会ってもらえませんか? 飛影さんが初めてなんです。あんな風に言ってくれたのは。 ずっとずっとうまく話せない自分が嫌いで、それでもどうしたらいいのかわからなくて、 昨日みたいに飛影さんが言ってくれたら…いえ、そうじゃなくて。その、なんていうか…」 言葉がうまくまとまらないのか、混乱しているを ただ黙ってじっと見つめている飛影。 「わたし…飛影さんが好きなんです。だから…」 今度こそ顔を真っ赤に染めて、がやっとの思いで言葉を紡いだ。 「だからお互いのまちへ帰った後も、また会ってもらえますか?」 それでも逃げず、飛影のほうへ顔を上げたまま問い掛ける。 「気が向いたらな」 返事はそっけないものだったが、なぜかは会いに来てくれることを予感していた。 夏が過ぎ、この夜の出来事も過去へと流れてゆく。 そしてある日、の部屋へ「来てやったぞ」と言う言葉とともに、 窓からの不法侵入者が現われる。 End |