運動会大作戦 4 (作・むくむく) ザザザザーーーッ 打ち付けるような激しい雨だ。 「雨のため、暫くの間競技を中断致します。みなさんは雨が上がるまで 待機をお願いします。」 皆テントの下や、屋根の下など雨宿りできる場所へ移動した。 「クッソー!せっかくやる気満々だったのによぉ。」 やる気をそがれた桑原が恨めしそうに空を見上げた。その横で飛影と幽助は (時間稼ぎをしてる間に、二日酔いが少しはましになる)とホッとしていた。 すぐにやむだろうと思われた雨は、以外に長く続いた。待ちくたびれて帰って いく者もおり、だんだん人数が減ってきた。このまま中止になるのではと思った 時、やっと雨がやんだ。 「えー、雨があがりましたので、運動会を再開したいと思いますが、時間の都合上 プログラムを変更いたします。」 アナウンスよると賞品を争う競技の内、障害物競走と2人3脚が省かれ、借り物競走 だけで順位を決める事になった。文句の声も聞こえたが、時間が押し迫って来てる事 もあり、渋々それに従った。 毎年、賞品を狙って多くの出場者がいる競技だが、今回は雨で帰った者が多く、例年 では考えられないほどの小人数だったので、選手全員が一度に走る事になった。当然、 飛影、幽助、桑原の3人は賞品ゲットの為、互いに火花を散らしていた。 (二日酔いもましになってきたし、蛍子の為に1位を狙って行くぜ!) (吐き気が収まってきた。フン、賞品は俺のものだ。、待ってろよ!) (幽助と飛影の奴、調子が戻ってきちまったみたいだな。やばいな。だが雪菜さんの ために、絶対ぇ負けられない!) ぼたんが不思議そうに聞いた。 「蔵馬は出ないのかい?」 「ええ、飛影と幽助が妖力を使わないように監視しないといけませんから。」 スタートラインについた選手達。 「イチについて、、、、ヨーイ、ドン!!」 ピストルの音と共に走り出す選手達。キャーキャー、ワーワー歓声の中、ぬかるみに 足をとられて転倒したり、足を滑らす者が続出した。この借り物競走、一般的なもの とは少し違い、借りるものは”物”ではなく”者(人)”であった。例えば、髪の長 い人、ジーンズをはいている人、中には、幸せそうな人等という抽象的な注文もあり なかなか難しく、しかもその相手と一緒にトラックを3周回ってゴールという、奇妙 なルールで、体力のありそうな相手を選ばないと上位入賞は難しかった。 飛影は走りながら考えていた。 (去年、大差を付けてトップで走っていた奴が引いたのは”80才以上のお年寄り”で 85才のお婆ちゃんを連れて行ったが、当然トラック3周も無理だったのでリタイアし たという話を聞いた事がある。事前に紙の内容がわかりさえすればチョロいものだ。 よし、こういう時は俺の邪眼で・・・) 飛影は額のハチマキをずらそうとしたが、固く結ばれていて動かす事が出来なかった。 その時、蔵馬が「フッ」と笑うのが見えた。 (そう言えば、始まる前に蔵馬の奴、ハチマキがはずれると失格だからといって、 思いっきりきつく結びやがった。俺の邪眼を使えなくするためだったとは・・・。 クッソー!!蔵馬の奴、覚えていろ!!) 飛影は自分がしようとした不正を棚に上げて、蔵馬を怨んだ。 そうこうしているうちに、紙の前まで走ってきた。飛影は一番近くの紙を拾い上げ 中身を見て暫く呆然としてから「チッ!」と舌打ちした。そして、観客席に走って を呼んだ。 「オイ!!!!早く来い!!」 「えっ?私?何て書いてあるの?」 「そんな事はどうでもいい!それより早くしろ!」 は強引に腕を引っ張られてバランスを崩し、足首をひねってしまった。 「痛っ!」 「だ、大丈夫か?」 「うん、大丈夫。がんばる!!」 は痛む足を庇いながら、懸命に飛影と手を繋ぎ走り出した。大した怪我ではなかった のだが、走るのは辛そうで1周目を走り終えた時、の顔は苦痛で歪んでいた。 今のところはトップであったが、後ろを見ると幽助は陸上部の少年を連れて、桑原は町内 マラソン大会でトップクラスのおじさんを連れて走ってきていた。 「このままでは、まずい。しょうがない・・・」 飛影は呟くとを背中に負い、すさまじい勢いで走り出した。当然幽助も桑原も負けじと 猛スピードで追ってくる。勝負は飛影、幽助、桑原、3組の争いになった。ゴール目前、 飛影か幽助か桑原か!!! 「パン!!」 ゴールを知らせるピストルが鳴った。テープを切ったのは3組同時。ただ、飛影に背負 われたが「ガンバレ〜〜!」と腕を前に突き出した分だけ、僅かに早かった。 「一位は飛影さんです!!」 アナウンスの声に、飛影とは抱き合って喜んだ。 「よかったな、飛影」とさっきまでのライバル達も素直に喜んでくれた。 他のプログラムも無事終わり、閉会式で飛影は賞品を受け取ったが、何故か不満そうな顔を していた。 「ただいま〜。あ〜〜〜疲れたぁ!」満足そうなの横で飛影がムッとしていた。そんな事 にはお構いなく、帰って来るなりはテレビの前でゴソゴソし始めた。 「一体どういう事なんだ!」 「何がぁ?」 「一位の賞品は新婚旅行じゃなかったのか!?」 「え?うん・・噂ではそうだったんだけど、賞品はその時にならないと分からないのよ。」 は賞品のDVDプレイヤーをテレビに接続し終え、借りてきた映画のDVDを再生し始めた。 「わ〜〜!やっぱり綺麗。レンタルビデオだと画質が悪くてイマイチだったけど、これなら 大好きな映画も綺麗な画面で見られるわ〜。」 「おまえは旅行じゃなくて残念じゃないのか?」 「うーーん?ちょっぴり残念だったけど、別にいいの。だって飛影と一緒に居られるんだっ たら、どこでもいいのよ。」 そう言うと、ラブソファーの飛影の横に座り、ぴったりと身体を寄せた。 「ねっ、映画見ながら二人でこうやってゆっくりするのも悪くないでしょ?」 とニッコリ笑うの顔を見て、すっかり機嫌が直った飛影は抱き寄せようとしたが、ふと 思いだしたようには立ち上がり、何かを持ってきた。 「はい、これ。1位になったお祝いよ。」 「ウッ・・・・・」 飛影の前に差し出されたのは、ワインとグラスだった。二日酔いはすっかり冷めたはずな のだが、何ともいえないあの感覚が甦ってきた。出来る事なら飲みたくないが、せっかく 用意してくれたワインを断るとがっかりするだろうと、グラスを口元にまで運んだが、ど うしても飲めなかった。その様子を見ていたは、少し悪戯っぽく微笑んだ。 「ねぇ、飛影・・・。これだったら飲めるでしょぉ?」 艶っぽい声で飛影に近づき、ワインを口に含むとそっと飛影に口づけしてワインを注ぎ込 んだ。 「オ、オイ、何を!!・・・んっ・・・んん・・・・・」 「おいしい?」 「貴様ーーーー!よくもーーー!!」 怒った声とは裏腹に飛影はを強く抱きしめ、それから耳元で囁いた。 「俺もおまえと一緒に居られるなら、どこでもいい。。。」 「うん・・・」 実は、賞品が新婚旅行じゃないと知っては飛影以上に落ち込んでいたのだった。だが、 その後、飛影のズボンのポケットから落ちてきた紙をこっそり見て、すっかり機嫌が直った のだ。それは借り物競走の紙で、中には 『 あなたの一番大事な人 』 と書かれていた。 はそれを思い出してクスッと笑った。 「何がおかしい?」 「何でもないよー♪」 は文句を言いたそうな飛影の唇を自分の唇でふわっと塞ぎ、そのまま二人の時間は流れ て行った。 運動会大作・・・取りあえず、成功・・・かな? The End 『cross point』の部屋 |