それぞれの想い 3



は、徐々に日常生活へと戻っていった。
無事に蔵馬と同じマンションへの引っ越しも終わり、雪菜との共同生活は
長らく一人暮らしをしていたにとっては、とても楽しいものだった。
魔界でのショックもなく、毎日を平穏で楽しく過ごしている・・・
周囲の者達はそう思っていた。

トゥルルルル・・・・・・

「もしもし。あっ、雪菜ちゃん?どうしたの?・・・・桑原君と一緒に夕食?
 わかった。デート楽しんで来て!!」

  雪菜ちゃんは桑原君とデートか。せっかく腕によりをかけてビーフシチュー
  作ったのに。まっ、デートならしょうがないっか。こんな時には・・・

トゥルルルル・・・・・・

「もしもし、蔵馬?夕食食べた?」
「まだだけど」
「よかったー。ビーフシチュー作ったんだけど、一緒に食べない? 雪菜ちゃん、
 デートでいらないっていうから。」
「本当に?嬉しいなぁ。仕事で疲れて、ぐったりしてたんだ。」
「じゃぁ、これから持っていくね。」
「悪いな。あっ、玄関のインターホン壊れてるから、チャイムを鳴らさないで
 そのまま勝手に入ってきていいよ。」
「了解!!」

  えーっと、チャイム鳴らさなくてもいいって言ってたから、そのまま入るよーー
  蔵馬は・・・奥の部屋?
  誰か居るみたい。誰・・・?    もしかしたら・・・・・


「どうしたんだ、その怪我。」
「それより調達して貰いたい物がある。   痛っ・・・   
 大会でこの力を出せば、楽に優勝してただろうに。」
「その傷、躯に・・?   痴話げんかですか?」
「殺すぞ・・・」

「その花ならすぐ用意できますが、一体何に?」
「つまらんことだ。1週間後が、躯の誕生日でな。それでちょっと・・・」
                         (一部「幽遊白書」19巻より)

  
  飛影!・・・やっぱり飛影。
  躯さんの誕生日のために、わざわざ花を蔵馬に頼みに来たの?   そんな・・・


「誰だ?そこに居るのは!」
 
飛影が部屋のドアを開けた。

!!!」
「あっ、ひ、飛影、 こ、こんにちわ。えーっと、立ち聞きするつもりはなかったんだけど、
 えっと、あの、その、えっと・・・・・ゴメン、蔵馬。用事が出来たから、二人で
 シチュー食べて。」

シチューの鍋を蔵馬に押しつけ、は走って出ていった。

「何だ、あいつは。騒々しい奴だ。」
あきれ顔の飛影に、蔵馬が言った。
さんも・・・・一週間後が誕生日なんだ。」


  飛影・・・飛影・・・また会えたと思ったのに・・・・
  だけど、あなたは躯さんが・・・・


その後、は何事もなかったかのように、振る舞った。
蔵馬には彼女の心の中が分かっていたが、あえて何も言わなかった。

の誕生日。
仕事で忙しい蔵馬以外の幽助、桑原、雪菜、蛍子の4人で誕生日パーティーの計画を立てた。
幽助と蛍子が料理の準備(と言ってもデリバリーだが)、桑原と雪菜は”そこにしかない”
という珍しいプレゼントを買いに、車で遠出をした。

トゥルルルル・・・・・・

「俺、幽助。さっき蛍子のお袋さんが倒れてよぉ、入院しちまったんだ。蛍子は俺には行け
 って言うんだけど、お袋さん、放っておけなくてよ。 だから・・・悪ぃ!!
 今日は行けない!!!」
「大丈夫なの?いいのよ、気にしなくって。側にいてあげて。お大事に。」

幽助と蛍子は欠席。とは言っても、しっかりものの蛍子の事だけあって、デリバリー料理の
手配は出来ていて、30分後には配達されてきた。

夜の8時。
7時予定のパーティーの筈なのに、桑原と雪菜がまだ帰ってこなかった。

  おかしいなぁー。事故でもあったのかなぁ・・・

トゥルルルル・・・・・・

「もしもし、雪菜です。」
「雪菜ちゃん、どうしたの?何かあったの?」
さん、連絡が遅くなってごめんなさい。土砂崩れで道路が通行止めになってしまったの」
「えーーーー!!大丈夫???」
「私達は大丈夫なんだけど、復旧作業が遅れて、今日は帰れそうになくて・・・ごめんなさい。
 さんの誕生日なのに」
「ううん、仕方ないもん。雪菜ちゃん達が無事で良かった。でも、今日これから二人でどうするの?」
「近くの旅館が空いてるから、そこに泊まります。幽助さんと蛍子さんに、よろしく伝えて下さい。」
「わかった、わかった。それより、雪菜ちゃんこそ、桑原君と二人きりになるんだから気をつけてね」

「どういう意味ですか???」 と聞く雪菜に答えず、笑いながら電話を切った。幽助達が来ない事
を言わなかったのは、雪菜への気遣いだった。


  ハーーー、一人か・・・・

は大きくため息をついた。一人きりの誕生日なんて、今まで何回も過ごしてきたはず。だけど、
賑やかな仲間達に囲まれ、それに慣れたには、前以上に寂しく感じられた。


  もうすぐ12時。私の誕生日も、もうすぐ終わり・・・

窓を開け、はまたため息をついた。料理もすっかり冷え切って、余計に気分が落ち込んだ。

  あと、1分。

窓を閉めようとした時、黒い影が部屋の中に飛び込んできた。

「!!!!!!!」

「何とか間に合ったか」
時計をチラッと見た影の主は、飛影であった。

「ど・・・どうしたの・・・飛影・・」
「今日はおまえの誕生日だろ?」
「うん・・・でも、躯さんも誕生日なんでしょ? それなのに、人間界に来てもいいの?」
「あぁ。躯は蔵馬に頼んだ”ヒトモドキ”の花を使い、今まで縛られ続けた過去の鎖を
 断ち切ってやった。あいつはこれから一人で生きていける。もう、俺の役目も終わった。」

     『 Happy Birthday    』       





*END*


話物topへ