バレンタインって?



ここは幽助の部屋。

幽助、桑原、蔵馬、飛影の4人が、集まっていた。

「もうすぐバレンタインデーだな。」  桑原が言った。

「ああ、2月の14日だったっけな。」  幽助が答えた。

「何だよ、人ごとみたいに。どうせ蛍子ちゃんからチョコレートもらうんだろ?」

「あぁ、多分な。だけどあんなもん貰うと、後が大変だからな」

「そうだよなぁ。蔵馬は一杯貰って大変なんじゃねぇのか?」

「一杯というほどじゃないけど、後が色々面倒なんで、全部断ってますよ。」

「俺なんか、姉ちゃんから貰うだけでも、やっかいだからな。」


飛影は何も言わず、3人の会話を聞いていた。

(バレンタインとは一体何だ?)

人間界の風習など知らなくて当たり前なのだが、桑原に馬鹿にされるのもしゃくなので、

何も聞かずにいた。

皆と別れた後、飛影なりに考えた結果、こういう結論が出た。



バレンタインとは2月14日に、女がチョコを渡そうとする日で、それを受け取ると

後々、とてもやっかいな事になるので、受け取らない方が良い、と。



翌日、飛影はに会った。

魔界パトロールの一環として人間界に派遣された日に、邪悪な妖怪から彼女を助けたのをきっかけに、

時々会うようになった。と一緒にいると心が和んだ。離れていると会いたくなった。

だが、その気持ちが一体何なのか、飛影にはわからなかった。


は飛影に言った。

「14日、会って欲しいんだけど。」

飛影は昨日の事を思い出した。14日はバレンタインデー。女からチョコを受け取ってはいけない日。

「別に構わんが・・・チョコはいらんぞ。」  と、そっけなく言った。

は「えっ?」というような顔をしたが、

「じゃぁ、夕方、ここで待っててね。」 と言って帰っていった。



バレンタインデー当日。

飛影はバレンタインの事をもっとよく知るために、皆の行動を邪眼で見ていた。

幽助は蛍子から、チョコレートらしきものを貰っていた。意外にも嬉しそうな顔をしていた。

(後が大変だと言っていたが、二人はは許嫁みたいなものだから、幽助も覚悟を決めてチョコを

受け取ったのであろう。)   飛影はそう思った。

次は蔵馬。ひっきりなしに女の子がやって来たが、誰からもチョコを受け取らなかったようだ。

(さすがは、用心深い蔵馬だな。) 飛影は感心した。

桑原はというと、やはり姉の静流からチョコを受け取っていた。

(姉弟だから、仕方ないのだろう)  飛影は思った。

だが、同級生の女の子から 「お返し期待してるからね」 と言って差し出されたチョコを

にやけ顔で受け取ったのには、驚いた。

(桑原はああ見えても、根性が座った男だからな。覚悟を決めたのであろう) と納得した。


夕方、飛影はとの約束の場所へ行った。はいつもよりおしゃれをして待っていた。

彼女からはいい香りが漂ってきた。そして、手には何か包みがあった。

(あれはチョコだな?絶対にアレは受け取らんぞ)

飛影はそう誓った。


「飛影。これ・・・」

と恥ずかしそうにプレゼントを差し出すに、飛影は冷たく言った。

「貴様が、何を企んでるかは知らんが、そんなものは受け取らん。」

の顔がみるみる青ざめ、やっとのことでこう言った。

「・・・ごめんなさい・・・飛影の気持ちも考えずに・・・」

その目からは涙が溢れ出してきた。


飛影はその瞬間 (しまった。何か悪い事を言ったのか?) と思ったが、

時すでに遅し、は泣きながら走っていってしまった。

(チョコを受け取らないのは、そんなに悪い事なのか?)

飛影には何が何なのかわからなかったが、ものすごく後悔した。


しばらくして、雪菜がやって来た。

さん、泣いてましたよ。」

雪菜はきつい口調で言った。

飛影は訳がわからなくなり、雪菜にバレンタインとは何かを聞く事にした。


「やっぱり・・・。バレンタインのことを知らなかったんですね。バレンタインは

 女の子が愛の告白をする日なんですよ。その時にチョコを渡す習慣があるのです。」

 あと、”義理チョコ”と言って、日頃お世話になった男性にチョコを渡したりもするみたいです。」

「だが、桑原達は後がやっかいだと言っていたぞ・・・」

愕然としながら飛影は桑原達の会話の事を話した。

「それは一ヶ月後に、男性から女性にお返しをするホワイトデーがあるからじゃないですか?」

そう言って、雪菜は微笑んだ。


「お前は、アレだ・・その・・チョコを誰かにやったのか?」

「はい。和真さん・・・」

「何? あのつぶれ顔の桑原にやったのか?!!」

「話は最後まで聞いて下さい。和真さんじゃなくて、和真さんのお父さんに渡しました。

 いつも本当の娘のように大事にして頂いてるので。 それより、さんを呼んできます。

 かわいそうに、すごく落ち込んでいるんですよ」

を呼びに行った雪菜の後ろ姿を見て、飛影はほっとした。

「義理チョコか・・・」



が目を真っ赤に腫らしてやって来た。

「さっきは・・その・・すまなかった。俺の勘違いだ。」

飛影は、珍しく素直に言った。

「ううん。私の方こそ、何も考えずにごめんなさい。人間界の習慣なんか知らなくて当たり前なのに、

 私ったら・・・」

が差し出したプレゼントを、今度は素直に受け取った。

飛影は早速、中を開けてみた。

「これは・・・チョコではない・・?」

「リンゴのコンポートよ。シロップで煮込んであるの。この前、チョコはいらないって言ってたから、

 チョコは嫌いなのかなと思って。リンゴは栄養があるから、体を酷使してる飛影にいいと思ったの。」

飛影は、体の事まで気遣ってくれるを愛しく感じた。



「いい香りだ。この香りはおまえから漂っているのか・・・?」

「多分、リンゴに入れたシナモンの香りだと思うけど・・」

リンゴを煮込む時に入れたシナモンの香りだが、 おそらく、作っている間にシナモンの香りが

に移ったのだろう。


「この香りがどっちから香ってくるのか、こうすればよくわかる」

と言って、飛影はギュッとを抱きしめた。

の香りだ」

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飛影とさん。二人がいつまでも幸せでありますように。

   ☆☆☆ Happy Valentine  ☆☆☆



 
*END*



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