幼なじみ 2



オレはある年齢に達すると、妖狐の村を出て一人で暮らし始めた。

村に何かあった時、すぐに駆けつけられるように、あまり離れた場所ではなかった。

オレは魔界の新興勢力として名を上げるため、魔界での一番ポピュラーな職業の盗賊

となった。そうすれば、誰も妖狐族の村を襲う事はないだろうと思ったからだ。

は時々オレの住処に、掃除、洗濯、料理、そして小言を言いに来た。

「蔵馬は頭が切れるんだから、盗賊なんかにならなくっても、絶対魔界の頂点に

 立てるようになるわよ。」

顔を合わすと、はいつも同じ事を言った。それが鬱陶しく感じつつも、彼女の

来訪は嬉しい事でもあった。



ある日、オレは難攻不落と言われていた古城へ盗みに行く計画を立てた。

それを知ったは、オレの腕を掴み、止めようとした。

「蔵馬、今日はやめた方がいいよ。何だか、すごくイヤな事があるような気がするの。」

の勘はよく当たるのだが、盗賊仲間と立てた計画を、一人で抜ける訳にはいかない。

それに、何より、難攻不落と言われている古城に挑んでみたかった。

「大丈夫。必ず帰ってくるから、心配しなくてもいい。」

そう言っても納得しないの手をほどいて、外へ出た。

「帰ったら、の作ったシチューが食べたい。」

そう言いながら振り返ると、が不安そうな顔で頷いたのが見えた。

・・・・それが、二人の最後の会話だった。

その後オレは、ハンターに追われ人間界へ逃げ込んだのだった。




人間界では魔界の深層部の事までよくわからない。に自分の事を知らせようにも、

その方法がなかった。そして、がどうしているのかも分からないまま、年月が

経っていった。



黄泉に呼ばれ、魔界へ戻った時、に連絡が取れない事もなかったが、そうしなかった。

昔の盗賊仲間は、プライベートな事は一切口にしなかった。お互い、弱みを見せない

ようにしていたからだ。黄泉も恐らくの事は知らない筈、下手な行動を取って

黄泉にの存在が知られたら、危険にさらされるかも知れないと思ったからだ。



魔界統一トーナメント終了後、オレはやはりに連絡を取らなかった。黄泉の事は

もう関係ない。しかし、オレは母の居る人間界に帰らなければいけない。

の元に戻る事が出来ないからだ。



心残りに思いながら、人間界へ帰ろうとしていた時、不意に目の前に人影が現れた。

「・・・蔵馬・・なの・・・?」

銀色の髪、白装束、最後に会った時より見違えるほど綺麗になっていたが、紛れもなく

の姿だった。

「・・・・・・」

「やっぱり、蔵馬なのね! トーナメントに妖狐蔵馬が出てるっていう話を聞いて

 慌てて村から出てきたんだけど、姿が全く変わってたから、自信なくって・・・。」

思いもかけない事が起こり、オレは嬉しくてを思いっきり抱きしめたかった。だが、

に連絡さえとらなかった後ろめたさが、それを押しとどめた。


「蔵馬、元気そうで良かった。色々あったみたいだけど、もう帰って来られるんでしょ?」

「・・・いや・・それが・・・」

オレの説明を聞き、はがっかりしたように見えたが、気を取り直してこう言った。

「今まで待っていたんだもん。あと100年待つのも、200年待つのも同じ事だわ。

 人間のお母さんを大事にしてあげて。あの時亡くなった、私達の親のかわりに。

 でも、その後はちゃんと帰ってきて。約束のシチュー、ちゃーんと作って待ってるからね!」

そして、

「前の蔵馬も素敵だったけど、今の姿も結構好きよ!」

といって、オレの頬に軽くキスして微笑んだ。


その後、魔界と人間界の関わりも徐々に変わり、今は時々連絡を取り合えるようになった。





「幽助!今日こそは絶対許さないんだからー!」
「蛍子〜〜、悪かった〜〜!」


幽助と蛍子のいつもの痴話喧嘩を見ながら、オレは思った。

ここ最近忙しくて手紙も書いていない。あいつ、怒ってるだろうな。

家に帰ったら、久々にの好きな桜色の便箋で手紙でも書こうか・・・・と。





END



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