「妖魔の印」 の章

  双 龍 (二匹の龍)・・4
「気が付いたか?」  目をさました瑠紅は時雨の声を聞き起きあがろうとした。

「痛っ・・」  「傷はかなり深い。2匹の黒龍のエネルギーを受けて、生きているのが不思議なくらいだ。」時雨は言った。

「何故、私を助けた。」 「飛影の奴に頼まれたものでな。あいつとは知り合いか?」  瑠紅は何も答えなかった。

「まぁ、いい。ところで、何故、躯様を追っているのだ?」 「躯は、無抵抗の私たちの村を襲ったんだ。」  「躯様が・・・?」


「ある日、躯から「妖魔の印の事で話がある。来なければ村を襲う」 と手紙で呼び出された。 指示された場所へ行ったが

躯は来ず、不審に思い村へ戻ると、躯の部下と名乗る奴等に村は襲われ、かなりの村人に危害が加えられた。私達の村は

武力もなく、ただ静かに平和に暮らしてる者の集まりだ。唯一、私だけがそれなりの妖力を持ち村を守ってきた。奴等は私を

おびきだし、その間に「妖魔の印」を探すため村を襲った。 だからもう、躯が手出し出来ないようにするために、ここに来た」

と瑠紅は言った。

「躯はそんなことはせん。」 冬眠から目覚めたのか、飛影の声が扉から聞こえてきた。 「でも!!」反論しようとする

瑠紅に対して 「もしするなら、他の奴を使わず自分でやる。あいつはそういう奴だ。」 と静かだが力強く言った。

瑠紅は何か言いたそうだったが、しばらく、飛影の真剣な眼差しを見ながら、落ち着いて考えた後ポツリと言った。

「そうだね。躯なら、直接自分でやる・・・そんな事よく考えればわかりそうな事なのに・・・迷惑をかけて申し訳ない・・・」

しばらくの沈黙の後、時雨が言った。 「妖力を極限まで高めるという妖魔の印が本当にあったとはな。では、お主が黒龍波を

使えるのもその印のおかげなのか?」  「わからない・・・どうすれば妖魔の印を使えるのか、持っているだけでいいのjか、何

か特別な事をしなきゃいけないのか、それとも、特別な者だけが使えるのか・・・長老様はおっしゃってはくれなかったから。」

「それにしても、お前が生きていたとはな。」と飛影がフッと笑うと、その笑顔に安心したのか瑠紅の固い表情も少し緩んだ。

その様子を見て、時雨は気を遣ったつもりなのか、そっと部屋を出ていった。


あの時・・・飛影と別れたその後、瑠紅と幼い孤児達は平和な地を求めて西へ向かった。途中、妖魔の印を狙う者、ただ単に

命を狙ってくる者、色々な妖怪達が彼女達を襲ってきた。瑠紅は幼い孤児を守る為、必死に戦い、守り、戦い、逃げ、そして

戦い続けた。妖力も戦闘の度に徐々に増してきて、ある日妖力の高まりと共に、突然額から邪眼が現れるようになった。そし

て戦闘が終わり妖力が平常に戻ると額に跡形もなく邪眼が消えた。      旅の途中で老人がこう教えてくれた。

 
 昔々、こんな伝説があったんじゃ。戦いの時だけ邪眼が開き、終わると邪眼が跡形もなく消える、そういう種族がおったとな。

 その中でも妖力の高い者達は自由に黒龍を操る事が出来たそうじゃ。だが、元々戦いを好まぬ種族で、戦いを避けるうちに

 妖力は低くなり、黒龍はおろか邪眼でさえも退化していったそうじゃ。まぁ、単なる大昔の言い伝えじゃ、本当の事かどうか

 は分からんがな。じゃが、ひょっとすると、お前さんはその末裔かも知れんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と。

その後、瑠紅は邪王炎殺拳の最終奥義の黒龍波を身につけた。元来の素質の為か、妖魔の印の影響かは分からないが、

彼女は幻と言われていた黒龍波(飛影以外にその奥義を取得した者はいなかった)を使えるようになったのだ。


飛影は瑠紅のこれまでの過酷な経緯を聞き (俺がついててやればよかった) と改めて思い自分を責めた。しかし、瑠紅は

飛影のそんな思いも知らずこう言って微笑んだ。「飛影は人間界に行ったと風の噂で聞いてたけど、まさか邪眼を身につけ、

黒龍波の使い手になっていたなんて、驚いたわ。邪眼で・・・・探し物は見つかったのね。」


数日後、時雨の治療で何とか体が動かせるようになった瑠紅は村へ戻ると言い出した。「もう少し回復を待った方がいい」と

言う時雨の言葉に 「村が心配だから」 と言って立ち去ろうとした彼女に飛影がこう言った。

「一緒に村を守ってやろうか?」

あの時、言えなかった一言をやっと言ったのだった。

瑠紅が飛影の言葉をどう受け取ったのかはわからないが、「パトロールに飽きたからそんな事を言ってるんじゃないの?」と

笑い、こう続けた。

「ありがとう、飛影。でも大丈夫。村に帰ったら、自分の身を守る術を他の者達に教えるようにするわ。それに、私こう見えても

かなり強いのよ。腕に怪我さえしてなかったら、飛影の黒龍波なんかに負けてないわ!次の魔界トーナメントには出場して

飛影と戦いたいわ。その時は必ず勝つからね!!」 そう言うと、瑠紅はニッコリ微笑んで飛影に背中を向けた。そう、あの時

のように・・・・

走り去っていく瑠紅を見つめる飛影の後ろで声がした。 「ふられたな。」 振り向くと、煙鬼の所から戻ってきたばかりの躯が

立っていた。どうやら、時雨に事情を聞いていたようだ。

「フン、関係ない」 そう言って飛影はパトロールへ出かけていった。その顔は昔の後悔が吹っ切れたようで爽やかだった。



                                                                   *終わり*
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後記

幻の奥義と言われていた黒龍波を使える妖怪が、飛影以外にいたとしたら・・・? と、フト思いついて
この文を書き始めました。最初は2話くらいのはずが、言葉が上手くまとめられなくて、ズルズルと
4話になってしまいました。 この下手くそな話に最後までお付き合いくださった方に心から感謝いたします。