今日は見事なまでの満月。


魂が全て吸い取られそうな程、綺麗な月。


そう、あの人の瞳のように・・・・





闇の中で ・ 瞳





今日の彼(蔵馬)は少し変。


ううん、今日だけじゃない。最近ちょっと変。


何かあったのかしら? 私に言えない何かが?





今日は彼のマンションでデート。


仕事帰りで時間がないから、テイクアウトのお料理を買い込んで、


ちょっと高価なワインを買って楽しく食事をしていたのに、急に席を立って


隣の部屋へ行ってしまった。随分顔色が悪く見えたけど・・・大丈夫かしら?





彼とはちょっとしたきっかけで知り合った。妙に気があってつきあい始めた頃、


彼の友人の彼女から「蔵馬君は妖怪だ」なんて聞かされて、ほんとビックリした。


実は前から、”普通の人”とはちょっと違うって気がしてたから、彼女が言った事で、


「あぁ、なるほど!」と妙に納得したりもした。彼が妖怪でも、彼は彼。


急に別人になる訳じゃない。だから、彼への思いは変わらなかった。


それどころか彼の秘密を知ってから、もっと二人は分かり合えるようになった、って気がしてた。


だって、彼の瞳の優しさに偽りはなかったから。でも、最近の彼は・・・・・。





だいぶ時間が経ったけど、隣の部屋にまだ入っていったきり。心配だわ。


様子見に行こうかしら。





コンコン・・・・





「今は・・・入ってくるな・・・」


声の様子がおかしい。入るなと言われても、放って置く訳にはいかない。


「どうしたの?気分でも悪いの?」


おそるおそるドアを開けると・・・・部屋の中には、見知らぬ男が・・・


銀色の長い髪をした、白装束の男。氷のように冷たい目をした美しい男。





         誰・・・?





一瞬、驚きと恐怖で言葉が出なかった。


だけど、だけど、よーく見てみたら、冷たい目の奥に、いつもの優しい彼の瞳が


かすかに感じられた。





「蔵馬・・・?蔵馬なの?」


やっと声が出た。





『・・・!俺がわかるのか・・・?』





     当たり前じゃない。どんな姿でいても、あなたはあなたでしょ。





そう思うと、恐怖なんて消え去っていた。





『だが、この姿になると残忍になる。お前に対しても理性が保てなくなり、どうなるか
わからない。だから・・・』





     彼は妖怪。普通ではない事が起こっても・・・とっくに覚悟は決めている。





『だから・・・俺から離れて・・・俺の事を・・・忘れて欲しい・・・。』





彼の苦悩の言葉・・・。だけど、忘れるなんてイヤ。絶対にイヤ。


あなたがどんな風になっても、私はあなたと共に生きていく。そう決めている。


だから・・・・





私はゆっくり彼へと近づいて行った。彼は辛そうな顔で後ずさりをしていく。


それでも一歩ずつ彼に近づいていき、両手を伸ばし彼の身体を捉えて、ギュッと


抱き締めた。彼はそこから逃れようとしたけど、私は彼の瞳を見つめながら


懸命に言った。





「あなたの瞳の奥は、いつもの蔵馬のままよ。」





そう、あの優しいあなたの瞳・・・。自分の言葉に偽りはなかった。





私の想いが通じたのか、彼の手は少し戸惑いながら、優しくそっと抱き締めてた。








月の光が優しく包みこんでくれた。





次へ


戻る