Merry X'mas 1 (作者・紫 月) 「じゃ、留守番よろしく頼みますね。」だの、 「ご飯、ちゃんとチンして食べてよねー。」だの・・まったく人を子ども扱いしやがって! そっぽを向いて拗ねた顔をしていれば、あたりは「やっぱりやめとこうかなぁ・・。」 などと言い出してくれるんじゃないか? そんなほのかな期待は、無残に打ち砕かれた。 満面の笑みで「着いたら電話するからねー♪」と手を振って出て行った二人を見送った後、 「くそっ!なんでオレがこんな目に!?」と、飛影は身悶えしながら叫んだ。 そもそも、始まりはオレの拾った福引券だった。 木の上で休んでいたオレの顔に張り付きやがって、あやうく窒息死するところだった ・・などと報告がてら渡した一枚の紙切れに、の目の色が変わるなどと、一体誰 が想像できた? 近所のさびれた商店街にしては一等が豪華な事で知られているというのだ。 まぁ、そんなもの当たるわけがない・・と、たかをくくっていた飛影は、わずか30分 後には度肝を抜かれていた。 まさに執念の勝利とでも言おうか、は狙っていた幸運の極みとも呼べる黄金色の 玉を見事に引き当て、大量のパンフレットと共に戻って来た。 要らぬおまけまで引き連れて・・。 「やっぱ霊感あるんだよー。あんなばったり、偶然見つかっちゃうなんてさー。」 おめでとうございまーす♪の歓声と共に、お約束のカランカラン〜♪という鐘が鳴らされ、 「やったなぁー!こんなの初めて見たぜー。あれって、ほんとに当たり入ってんだ なぁー!!」 「うんうん、ホント!!絶対カスばっかり入れてると思ってたー!!」 などと、福引所の親父が張り付いたような笑顔になるのも構わず、通りすがりの通行 人と喜びを分かち合ったつもりが・・ なんと、蓋を開けてみれば、桑原と雪菜だった・・らしい。 かくして、ペア2名様ご招待の枠に群がる面々・・。 ど厚かましいにも程があるな。お前らも参加するつもりか?・・と飛影はぼそっと 言ってはみたが、誰も聞いちゃいない。 既にティッシュをこよりにして、先を赤く塗って・・と、くじは5人分完成していた。 桑原、雪菜、・・この2人は期待と不安の入り混じった複雑な表情を見せていた。 なんたって、うまくいけば二人きりで一夜を共にできる切符を手にする・・、それは もう口から心臓が飛び出るほどにハラハラするだろう。 それに比べて飛影は、「フン、くだらんな。」と、拍子抜けするほどいつもと何ら変わらず、 はで、「上げ膳据え膳ってのがしたかったのよーーっ♪」と全然,、見当違 いの期待を見せる。 (まったく、この二人と来たら・・) 蔵馬は呆れて物も言えず、やれやれ・・と肩をすくめた。 そうして行われた、目を血走らせている3人+どうでもいいフリ1人+ほんとにどうで もいい蔵馬が頭を突き合わせての争奪戦・・・。 幸運の女神が微笑んだのは、蔵馬とだった。 もちろん、蔵馬は後から飛影に譲るつもりでいたのだが、すっかり意気消沈した桑原 によってこの計画は台無しに。 「・・こうなったら飛影も道連れにしてやる・・。いいか、蔵馬?ぜってぇー、譲渡 は許さねぇからなっ!」・・に始まり、 「フン、元よりオレはそんな物に興味はない。」 売り言葉に買い言葉・・、意固地な飛影はせっかくのチャンスを自ら逃してしまったのだった。 出発の日が近付くにつれて、さすがの飛影も事の重大さに焦ったが、時既に遅し・・。 風邪でもひいて寝込んでくれ・・そしたら看病と称してずっと一緒にいられるぞ・・。 いや、蔵馬に急な仕事が入るってのでも構わんぞ・・それならオレが取って代われるしな・・。 往生際悪くあれこれともくろんでいたが、はいたって元気、蔵馬もなんら障害な く仕事を片付け・・。 そして今、たったひとり残された部屋で、飛影は悔しさに地団駄を踏んでいるのだった。 いつまでもこうしちゃいられない・・。 まさか手でも繋いでるんじゃないだろうな? ・・そんな事を思い付くと居ても立ってもいられず、身体中が熱くなる。 我に返った飛影は額の布を乱暴に取り去り、かつてないほど目一杯に邪眼を開いた。 目指すは、もちろんあの二人。 探し当てるのなんて、今の飛影には全く雑作ないこと。 なにしろ、執念と怨念が合体した嫉妬の鬼と化していたのだから・・。 2話へ topへ |