Merry X'mas 2  (作者・安 奈

(はぁ、まったく…)
空港へ向かう列車の中で、蔵馬はそっと溜息を付いていた。
本当は桑原がなんと言おうと、急用が出来たとか、
仕事が忙しくて手が離せないとか、適当な理由をつけて
飛影と代わる事もできたのだがそうしなかったのは、
二人に互いがどんなに大切な存在なのかを思い知って欲しかったからである。
(それにどうせ飛影は後から追いかけて来てるでしようしね)
その飛影はと言えば蔵馬の予想通り、間違っても見つからない距離を保ちながら
二人を追いかけてきていた。

(ちっ、のヤツ蔵馬なんぞとあんな楽しそうに話しやがって。
大体元になった福引券を拾って来たのはこのオレだそ!!)
そんな事をブツブツ言っている間に列車はホームに滑りこみ、
と蔵馬の二人は乗り換えの為に降りてきたところだった。
遠くで見つめる飛影の邪眼には、仲のよいカップルにしか見えない
二人が映る。
ムカつく気分を押さえるため、手近にあった交番を輪切りにする。
おまわりさんが留守だったのは不幸中の幸いとも言えよう。
もちろんおまわりさんにとって。

さてさらに列車は進み、があることに気がついた。
「大変、これ空港へ向かう列車じゃないよ、降りて乗り換えなきゃ」
「あ、すみません。まだ言ってませんでしたね。
都合があって急きょ飛行機から列車の旅に変えたんです」
「なんだそうだったんだ。びっくりしたよ。
ところで都合ってなに?」
「大した事じゃないんですよ」
(飛行機じゃ飛影が追いかけて来れませんからね)
心の中で呟き、にっこり笑う蔵馬。
そうしている間にも夜はおとずれ明けていく。
終点が近づく。
さん、そろそろ降りる準備をしましょうか。
あ、荷物オレが下ろしますよ」
「あ、ありがと♪ 蔵馬って飛影と違ってさりげなくやさしいよね」
それへと苦笑を返す蔵馬。
駅を出ると一面の銀世界だった。

「うわー、北海道ってやっぱさむーい。
ね、ここからどっちへ向かうの?」
「とりあえずバスが来るまでにまだだいぶ時間ありますから、
ここで昼食をとってから南富良野へ向かう事になりますね」
「富良野ってラベンダーで有名だよね。今度シーズンに来てみたいなー」
「誰とですか?」
その言葉を蔵馬は辛うじて呑みこんだ。
そしてそこから十数キロ離れた場所では、北海道まで走って来ていながら
息のひとつも乱さない飛影が、二人を睨み付けていた。
(蔵馬のヤツめ、に指一本でも出してみろ。なますにしてくれる!
だいたいだ。あんなに楽しそうにしやがって)
そんな所でぶつぶつ言うくらいなら、最初から意地など張らなければよいのだが…。
そうこうしている間にも二人はバスに乗り込み、今夜泊まるホテルについた。

「わーすごーい。ホントにログホテルだー。
なんかロマンティックだよね」
などと、飛影の気も知らずに(そりゃそーだ)はしゃぐ
荷物を持っている蔵馬の後からホテルの中へ入って行く。
部屋に荷物を置くと、は「ちょっと電話してくるね」
と言って出て行ったが、しばらくして戻ってくると、
「電話誰も出ないんだよ。飛影なにかあったのかなー」
そう心配して言うのに、蔵馬は思わず笑いそうになりながら、
「大丈夫ですよ。ちょっとどこかに出かけているんでしょう」
と言った。
「えー、だってついたら電話するって言ってあったんだよ?
それなのにいないなんて…。もしかしてなにかあったとか!」
「心配ですか?」
「それは…蔵馬は心配じゃないの?」
「ええ、まぁね。とにかく今日はホテルでゆっくりして、明日にそなえて早く寝ましょう。
ほら、いつの間にか雪が降ってますよ」
蔵馬の言葉通り、窓の外では厚く積もった雪の上に、また静かに雪が舞い始めていた。


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