冬のある日 (作・安奈さん)


「寒いぞ!!」 人間界に来て何度目かの冬。今年も飛影は吠えていた。
「さっさとストーブとやらに火を入れろ!こたつはまだあたたまらんのか!」
いや、ストーブに火を入れたら危ないってばよ。

暖冬と言われ始めて早*年。すでに暖冬が平均気温になってしまっていると言うのに…。
「飛影って氷河の国で生まれたんでしょ?なのになんでそんなに寒いの苦手なの?」
「うるさい、別にオレのせいじゃない!」
うっかり訊いた私も悪いかもしれないけど、そんなに睨まなくたって…。
はいはい、はんてんも出してあげるから、機嫌直してよ〜。
「そんなに寒いなら鍋焼きうどんでも作ってあげようか?」
その言葉に三白眼のまま、こくりと頷く。
か…かわいい。 普段と違って、素直な時の飛影はすごく可愛い。
このギャップに弱いのよね、私…。
思わず小躍りしながら台所へ向かう私を見ていた飛影の眼が、訝しそうにしかめられた。

私が飛影と初めてあったのは、ちょうど1年前のやっぱり冬。
合コンマニアの同僚に、「今度の合コンに、かならず彼を連れてきて」と言われ、
高校の後輩である南野君に頭を下げていた時。いきなり窓から入って来たのよね。
それはもう、びっくりしたわよ。一瞬どろぼうかとも思ったし…。
そしたら南野君ちのコタツにずかずか入りこんで、あげくに「コタツがぬるい!」なんて
怒鳴りだして…。 今思い出すと笑っちゃうわね。
毎回相手の男に華がない〜とこぼす同僚に、うっかり南野君の事をもらしたりしなければ、
飛影が今ココにいるなんて事は、なかったのよね。そう思うと同僚に感謝だわ(笑)

…なんて回想にひたっている間に鍋焼きができ上がった。
飛影はネギが嫌いなのよね。おいしいのに…。代わりに(ならないけど)卵をひとつ落として、
半熟のまま出す…途中で猫舌の飛影の為に、半かけの氷を追加。
おいしいのかな?
まぁ、不味ければ文句言うと思うけど。
前に一度おいしい?って訊いた時には、ぎろんと睨んだだけで何も言わなかったっけ。

「ねぇ飛影…」
うどんをがっついている飛影に、ふと声を掛けてみる。
「ねぇ飛影、もうすぐ1年だね」
私の言葉にうどんを食べる手を止め、怪訝そうな顔になる。
「覚えてないの?飛影と私が出会って、もうすぐ1年じゃない」
「そうだったか?」
「そうよ。折角だからふたりだけで何かお祝いしたいな〜」
レストランでの食事とか、いっそふたりだけで旅行とか…。
夢を膨らませている私に向かって、
「そんな必要はない」と、
飛影の冷たい声が降り注ぐ。
「えー、だってふたりの記念日じゃない。私はお祝いしたい」
「だったら一人で勝手にやればいいだろう。オレは知らん」
「・・・・・」
ほんっとにこういう時の飛影はかわいくないんだからっ!
頭に来た私は、思わず飛影の食べかけのうどんを取り上げた。
その拍子におつゆがこぼれる。
「キサマっ、なにをするっ!」
立ち上がって私を睨む飛影に内心怯みつつ、私も負けずに睨み返す。
「なによっ飛影のバカ!トーヘンボク!出てけっ!」
勢いだけで言葉を口にし、言った途端後悔した。 でももう遅い。
後悔した時には飛影ははんてんを着たまま部屋を出ていってしまった後だった。










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