冬のある日2 (作・むくむく)
の態度にカッとして飛び出したものの、飛影には行く当てもなかった。 そのまま魔界に帰っても良かったのだが、どうしてもそんな気にはなれず、 ただ当てもなく寒い街を彷徨っていた。 腹も減った。鍋焼きうどんを食ってから出ていけば良かった。 そう思っていると、どこからか彼を呼ぶ声がした。 声の主はラーメンの屋台の店主、浦飯幽助。 「オイ、飛影。お前が一人でこんな所うろついてるなんて珍しいじゃねぇか。」 「フン、キサマには関係ない。」 「珍しいと言えば、飛影のはんてん姿なんて初めて見たぜ。暖かそうだなぁ。」 飛影はその時、自分がはんてんを着たままだったのに気付き、気まずそうな顔で そさくさ脱いで幽助を睨み付けた。 「黙れ!」 「ま、そう言わずにラーメンでも食べてけよ。今日は暇なんだ。」 誰がそんなもの・・・と言いかけたが、飛影の腹の虫がググーと鳴りはじめた。 身体は素直なもんだ。 ムッとした表情のまま腰掛けた飛影に、幽助は透明の液体の入ったコップを置いた。 「何だ。これは?」 「酒だよ。ラーメンが出来るまで、それでも呑んで待っててくれよ。今晩は冷え込んでるから 暖っまるぜ。」 飛影は何も言わず、クイッっと酒を呑んだ。どうせ安酒だろうが、空きっ腹に染み渡っていく。 酒を呑み終えた頃、ラーメンが出来上がってきた。 「冷めない内に食えよ。」 ラーメンからは湯気が立ち、見るからに美味そうで、飛影は箸を取り食べようとしたが 手を止めた。 俺には熱すぎる。なら丁度良い熱さ加減にしてくれるのだが、まさか幽助に そうしてくれとは言えん。第一俺が猫舌だなんて幽助に知られるのも癪だ。 「飛影、どうした?食わねぇのか?腹減ってないのか?」 「いや・・・」 ラーメンが冷める間、幽助の気を逸らさなければいけない。何か・・・そう会話でも。 いつもの飛影だと、幽助と世間話をするなんて思いつかなかっただろうが、 空きっ腹に呑んだ酒がいい具合に効いてきて、舌も上手く回ってきた。 「幽助、一つ聞きたい事がある。」 「何だよ?」 「人間というものは何かの記念日とやらを大事にするものなのか?」 「記念日ぃ?うーーん、気にする奴はするし、気にしねぇ奴はしねぇし。 女は割とそういうの気にする方だよな。」 「そうなのか・・・?」 「あぁ、蛍子なんかよく『何々の記念日』だとか言ってるけど。俺には過去より現在の方が ずっと大事だけどなぁ。」 飛影は無言でラーメンをすすった。程良く冷めていた。 幽助の言うとおり、過去より現在の方が余程大事だ。現在と一緒にいる事の方が 俺には大切だ。どうしてそれがわからんのだ。 「でもよ、その記念日って時に食事に誘ってやったり、ちょっとしたプレゼントをやると、 すっげぇ喜ぶぜ。蛍子が喜ぶならまぁいいかなって思ってさ。所詮女はよく分かんねぇ 生き物だぜ。」 飛影はラーメンの汁を最後まで飲み干すと立ち上がった。ズボンのポケットに手を突っ込んだ が、お金を持たずに出てきたのを思いだした。 「金ならいいぜ。今日は俺のおごりだ。どうせ人間界の金なんて持ってないんだろ?」 今日ばかりは素直に好意に甘えた。酒のせいか、幽助のラーメンが美味かったせいか 飛影の身体は暖まったが、心の奥はまだヒンヤリとしていた。 「飛影、はんてん忘れてるぜ。」 人一倍不器用なが、寒がりの飛影のために手を血だらけにしながら縫い上げた お手製のはんてん。さっきは恥ずかしがっていたはんてんを着ると、心の奥まで暖かく 感じられた。同時に自分の取った態度も反省した。 ・・・今頃怒っているだろうか?それとも・・・。 挨拶替わりに幽助をチラッと見ると、飛影はその場から走り去った。 「ヤレヤレ・・・。飛影、うまくやれよ。」 恋愛経験では多少先輩の幽助が、何もかもお見通しのように呟いた。 ★ 第3話へ ★ 企画室へ戻る |