雨 音 2 (作・安奈さん)




「ところでどこへ行くんだ?」
「あ、言ってなかったっけ?」
飛影の言葉にはふわりと笑う。
「あのね、雨が楽しめるところ♪」
それだけ言うと、は飛影の先にたって歩き始めた。

ふたりがまず向かったのは、歩いて5分ほどのところにある駅。
外から見たことはあっても、中へ入った事は未だなかった飛影は、物めずらしそうに辺りを見まわす。
「ここは確か、長くて丸い足が沢山ついたものが出入りするところだな。
こんなところで何をするんだ?」
飛影の不機嫌そうな問いに、今度はお腹の底からおかしそうに、が笑う。
意味もわからず、ただなんとなくバカにされたような気がして、飛影はますます不機嫌な顔になる。
「そのね、長くて丸い足がついたものに、これから乗るんだよ」

が四角い箱にお金を入れると、代わりに箱が紙を2枚吐き出した。
「はい、これ飛影の分ね。なくさないように気をつけてね」
一枚を手渡され、訳が分からないながらも、(誰にものを言っているんだ)と、心の中で毒づいてみる。
それから、手渡された紙を、金属でできた妙なものに差し入れる。
口から入れてやったら尻から出てきたような気がして、飛影はちょっと顔を顰めたが、
がさも当たり前のような顔をして過ぎてゆくので、文句を言うのはやめておいた。
そして動く階段を上り、動かない階段を下り、動く廊下を横目で見ながら進んでいくと、
壁のない長い通路に出た。

「雨、天気予報では午後から上がるって言ってたけど、1日降りそうだね」
が遠くの空を見ながらつぶやくように言うと、それを待っていたかのように、
長くて丸い足が沢山ついたものが、滑るように入ってきた。
プシュッと音がして横っ腹にあるいくつもの口が開くと、中から人間がぞろぞろと出てきた。
その流れが止まるのを待って、今度は通路にいた人間達が乗り込んでゆく。
「飛影、早くっ」
にせかされるように、長いものの中に入る飛影。
その顔は、なんとも言いようのない表情をしていて、が思わず吹き出したほどだった。

長くて丸い足が沢山ついたものが動き始めても、は空いている席には座ろうとせず、
出入り口の近くで、窓の外を流れて行く雨を眺めていた。
そしてそんなをただ見つめる飛影。
ふと視線に気付き、がまた、ふわっとした笑顔を浮かべる。
(こんなものに乗るより、走った方がよほど早い)
そう思った飛影だが、その笑顔を見て辛うじて言葉を呑み込んだ。
代わりに出てきたのは、「やっぱりおかしな奴だな」という言葉だった。

いくつかの駅を過ぎ、目的の駅で降りる。
午前中で止む予定だった雨はまるでそんな気配は見せず、
の予測通り、一日中降りそうな雰囲気だった。

飛影がに連れられてきたのは、小さな公園だった。
雨の中、真っ白いワンピースと黒い上着に身を包み、楽しそうに雨の公園へ向かうを、
ものめずらしそうに幾つかの目が見送っている。
「ここが一体なんだと言うんだ?同じような場所なら、キサマの家の近くにもあるだろう」
「うん、同じようなところならね」
訝しげな飛影の言葉に答えながら、がまたふわりと笑う。
「でもね、ここにはうちの方の公園にはないものがあるの」
そう言ってが指差す先には、雨が掛からないよう、屋根の付いたベンチがあった。

「ここへはよく来るのか?」
濡れた服の水分を炎の妖気で蒸発させながら、飛影が、楽しそうにベンチに腰掛けるに問う。
「うん。ここに座ってるとね、壁に囲まれてるところと違って、雨の匂いや音が直接伝わって来て、
すごく落ち着くの。いつか飛影と雨の降る日にここへ来たかったんだ」
その言葉に飛影はニヤリと笑うと、「つくづくおかしな奴だぜ」と、楽しそうに鼻を鳴らした。

-終-








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