それぞれの想い 2



    あれ・・・?ここ・・・蔵馬の家?何で私こんな所にいるんだろう?
    変な夢見たなぁ・・・私が魔界に行っちゃうなんて。
    蔵馬や雪菜ちゃんが妖怪だから・・・そんな夢見ちゃったのかな?
    それにしても、体がだるい。起きなきゃいけないのに、起きられない・・・


「蔵馬、は大した霊力もないくせに、何故、魔界で仮死状態にならなかったんだ?」

幽助と桑原は帰り、部屋には蔵馬と飛影がいた。隣の寝室ではがまだ眠っていた。

「多分、よく俺達と一緒にいるようになって、「魔界の気」みたいなものに多少の免疫力が
 出来たんじゃないかな。」

飛影は 「フン」 とだけ言っと。

「ところで、飛影、最近の魔界はどうですか?」蔵馬が聞いた。
「退屈なだけだ。」
「じゃぁせっかくだから、暫く人間界に居たらどうですか? 今度雪菜ちゃんとさんが
 このマンションの下の階に引っ越してくるんですよ。」
「雪菜とが一緒に住むのか?」
「えぇ、さんは幼い頃両親を亡くして一人暮らしをしてるんですが、そこのアパートが
 老朽化のため取り壊しになるんです。身寄りのない女性の一人暮らしだと、貸してくれる
 所がなかなかないので、このマンションの大家に頼んだんですよ。雪菜ちゃんは、飛影が
 知っての通り桑原君の家に下宿してるけど、年頃の男女が1つ屋根の下に住むのもどうかと
 思ってね。 誰かさんがサッサと魔界に帰ってしまうから、すっかり保護者ですよ。」

蔵馬は悪戯っぽく笑って、言葉を続けた。

さんの家は引っ越しの荷物で、ゆっくり休めそうにないから、暫くここに居て貰おう
 と思ってるんですが、あいにく急な出張で俺も留守になる。その間だけでも、彼女のそばに
 いて欲しいんだが・・・」
「俺じゃなくても、雪菜がいるだろう。」
「雪菜ちゃんは送別会も兼ねて、桑原家と一緒に旅行に行くので。   
 ・・・まさか、飛影、躯に外泊は禁止だと言われてるんじゃないでしょうね?」
「何だと? そんな訳ないだろう!!」
「じゃぁ、決まった。さんを頼みますね」

すっかり蔵馬のペースにのせられた飛影であった。

さん、目が覚めた?」
「あっ、蔵馬、私一体?」
「まだ起きちゃだめだよ。魔界の影響がまだ残ってる筈だから、暫くはここに居るといい。
 俺は出張で出かけるけど、留守は飛影に頼んであるから、何なりと言うといいよ。」
蔵馬はそれだけ言うと、急いで出かけていった。

(魔界・・・?あれは夢じゃなかった・・の・・・?)

は寝室のドアの前に立っている人影に気づいた。

(・・・飛影・・・?!)

不意にの唇に柔らかい感触が甦った。魔界で、飛影がに「気」を送り込む時、微かに
意識があったのだ。そう、あれは人命救助のためのマウス・ツー・マウス。自分自身にそう言い
きかせてみたものの、恥ずかしいのには変わりはない。は赤くなった顔を隠すため布団に潜
り込んだ。

2、3日経って、少し体調が回復したは飛影に提案した。
「せっかく人間界に来たんだから、どこかに美味しいものでも食べに行きましょう。」と。
外へ出かけるほど回復した訳ではなかったが、二人っきりで部屋にいるのは、少し気まずく感じ
たのと、看病してくれたお礼をしたいと思ったからだ。気が進まない飛影を無理矢理引っ張って
二人は街へ出かけた。

週末の街はどこへ行っても、人であふれかえり、どこもかしこも人で一杯だった。
「蔵馬の家へ戻るぞ!!」
体が本調子でないを、人混みで疲れてはいけないと思い気遣った言葉だったが、相変わらずの
冷たい口調のため、は飛影を怒らせたのかと思った。
「でも、私、飛影にお礼がしたくって・・・食事くらいしか思いつかなくて・・」
泣きそうなの顔を見て、飛影は大きくため息をついた。
「暫くここで待っていろ、いいな?」

飛影は戻ってきたかと思うと、いきなりを担ぎ上げ、建物の間をすり抜けていった。
「飛影?!どうしたの?どこ行くの?」
「振り落とされたくなかったら、黙ってつかまっていろ。」

あっと言う間に街を抜け、小高い山に着いた。
「わー!きれい!街の灯りが宝石みたい!」
飛影は懐から包みを取り出しに渡した。
「ここで食う方が、よっぽど旨い。」
の手には暖かいハンバーガーが1つ置かれていた。

「礼など、俺に気を遣う必要はない。」
「でも・・・」
「いやなら、初めから看病などせん。」
「うん・・・・・・・・・。ハンバーガーおいしいね。」
今の二人にとって、どんな豪華な食事よりもおいしく感じた。

「明日、俺は魔界に帰る。向こうでゴタゴタがあったらしい。」
「・・・魔界・・・に帰るの?・・・」
はつぶやくように言った。
「もう、人間界には来ないの?」
「あぁ、用がなければな。」
(用がなければな・・・)飛影は心の中で繰り返した。

次の朝、が目覚めた時には、もう飛影の姿はなかった。



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