『いつか、此の海で』 〜第11話〜




それから一ヶ月。

あの男がを迎えにやってきた。

妖力もすっかり元に戻った飛影は、使いの男を抹殺しを魔界に行くのを阻止する事くらい

出来たかもしれなかった。しかし、そうした所での運命が変わるわけではない。

本当なら迎えが来るまでに石を破壊できれば良かったのだが、黒龍波のコントロールがまだ

完璧には出来ていない状態だった。人間界よりも魔界の方が黒龍が操りやすい。

期限ギリギリまで妖力を上げ、少しでも可能性が高い方に賭けた。


飛影は死の峡谷に着いた。

蔵馬は余計な気を遣わせないよう、飛影に隠れて仲間を集めていた。結界の中に入る事が出来ない

のは分かっていたが、石の破壊後結界からが放り出された時、いち早く救出するために待機

していた。


大きく深呼吸をしてから、飛影は結界へ入り城へと向かった。

は以前のように大きな赤い石の横に座らされていたが、今日は眠らず意識がある状態だった。

は飛影を見て涙を浮かべたものの、気丈にも唇を噛みしめ耐えていた。

飛影も”大丈夫だ”と目で合図を送った。


「飛影様、結婚の件、決心されましたか?」
「あぁ」
「では、準備を致します。」


男がから離れた時、飛影は剣に妖力を籠め男を斬りつけた。かなり強い妖力を持った男だったが

今の飛影にとっては、さほどでもない。これも計画の内だった。


「ひ、飛影様・・何を・・・」
「フン、こんな石ころ野郎の思い通りにはならん!」
「・・・様の・・・命は・・・」
「あいつは俺が助ける!」
「・・・どう・・やって・・・?」
「額の石を壊せば助かる。」
「・・石を・・あなたさまに・・そんな・・そんな事が・・出来る・・はず・・が・・」


男はそんな事は到底無理だと言うように飛影を見つめたまま息絶えた。


飛影は右手を封印している布を解き始めた。黒龍が今にも飛び出さんとばかり浮き上がっていた。

しかし、の額の小さな石めがけて黒龍を放つ決心がつかない。失敗は許されない。

考えれば考えるほど心が揺らぐ。

その時、が小さいがはっきりとした声で言った。


「絶対に大丈夫。あんなに頑張ってたんだもん。私、飛影を信じてる。だから、飛影も勇気を出して!」


は微笑みながら飛影を見つめた後、ゆっくりと目を閉じた。

飛影は右手を固く握り直し、全身の妖力を集中させ力一杯黒龍波を放った。


邪王炎殺黒龍波ッーーーーー!!!!!


ものすごいエネルギーが城中を駆けめぐった。


「頼む!黒龍よ!俺の言う事を聞いてくれぇ!」


強く強く念じ、ようやく黒龍はの額の石に向かって行った。


「石だ、石だけだ!!は護ってくれ!!


黒龍はそんな飛影の願いを聞き入れたのかどうかは判らないが、の額の石だけを破壊した。


「よしっ!いいぞ、黒龍!」


飛影は成功を確信した。

だが、凄まじいエネルギーを持て余した黒龍は反動で本体の赤い石をも破壊させた。


ギヤァァーー!!


赤い石の主の断末魔の叫びが響き渡った。

その瞬間、大きな爆発が起こり結界が破壊されてしまった。


・・・一瞬の事だった。

の身体は爆発に巻き込まれてしまった。



ーーーーー!!!!



飛影はありったけの声で彼女の名を叫んだ。

しかし、の姿はなく返事もなかった・・・・。


呆然とする飛影に代わって、蔵馬達が辺りを探したがの姿は見つからなかった。

あの爆発だ、おそらく跡形すら残らなかったのだろうと、蔵馬達はそう思ったが口には出せなかった。

何日も何日も飛影は辺りを捜索した。もしかしたら、爆風で飛ばされただけかも知れないと

微かな希望を持って。だが、普通の人間は魔界では生きられない。

飛影は鈴木に頼んでいた薬の事を今頃になって思い出した。あの時は黒龍波の事で頭が一杯で

薬の事をすっかり忘れていたのだった。もし薬を飲ませていたら、もしかしたら・・・・



「俺の・・・俺のせいだ・・・ぅわぁぁぁぁぁぁ!!!









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