『いつか、此の海で』 〜第7話〜




調査をすると言って出ていった蔵馬からは一向に連絡がなかった。

「あの蔵馬が手こずっているとは・・・」

の古文書の研究は少しずつだが進んでいた。



そんなある夜、部屋に異様な妖気を感じ飛影はを庇うように立ちはだかった。

霧に包まれて現れた男は、丁寧な言葉遣いで彼女に話しかけた。

様。お久しぶりでございます。その後の研究は如何かと?」

「キサマは誰だ!!!」

目の前の飛影に初めて気が付いたかのように少し驚いた振りをした。

「これは、これは・・・あなたはもしや飛影様?先日はあなた様だとは気づきませんでした。
 妖気があまりにも違ったものですから。」

「先日だと?」

「はい。私がトラックを動かしていた時です。」

「キサマは何故を狙っている?」

「狙うだなんてとんでもございません。わたくしはただ、様の運を試してみただけです。
 大事な古文書を託せるお方かどうか。決して傷つけるつもりはありませんでした。あの時
 様を助けたのが飛影様だとは気づきませんでしたが。」

「この古文書は一体どういう物なんだ。」

「はい。これはわたくしがお仕えしている一族に代々伝わっている物でございます。しかし
 時が経つにつれて、この本を解読出来る方がいなくなってしまいました。この本は選ばれた
 一部の方しか解読が出来ないようになっておりまして、そのお方を探していたのです。
 そしてそれが様でした。様、進み具合は如何ですか?」

「・・・まだそんなには・・・」

「さようでございますか。では、また参ります。しかし、飛影様が一緒にいらっしゃるとは、
 やはりご縁があるようですね・・・」

「それはどういう意味だ!そして、何故俺の名を知っている?!」

飛影の問いには答えず、男は出てきた時と同じように霧に包まれ姿を消した。



「どうやら、古文書が解読できるまでは”安全”なようだな。」

緊張と恐怖でヘナヘナと座り込んだは、苦笑いしながら聞いていた。

「じゃぁ、もし解読しなければずっと安全・・・何て事ないよね。」

「そうだな。に解読出来ないと判断すれば別の人間を探すだろう。その時はどうなるか・・。」

「ふぅ・・・。じゃ、仕方ない。解読しますか。」

・・・」

「大丈夫よ。何が書いてあるのか、個人的にも興味があるのよ。」

そう言うとは古文書に向かった。



は毎夜解読に励んだ。1つのキーワードが分かると、解読はスラスラ進んでいった。

「ねぇ、飛影。古文書の解読が終わったら、あの海辺の町へ行かない?」

「別に構わんが。何故だ?」

「私あの町がとっても好きだったの。特にあの海で見る夕日が。それに・・・」

「ん?」

「あそこは飛影と初めて会った場所だから・・・」

・・・」

「・・・な〜んてね・・・」

二人の目が合い照れ笑いをした。


が、幸せな時はすぐに破られた。あの男が霧から現れ、の身体を抱え上げた。

飛影はそれを止めさせようとしたが、男の眼力だけで身体が動かなくなってしまった。

「飛影様、ご心配なく。様に御主人様と会って頂くだけですから。すぐにお帰り頂きます。
 ご心配なら、来て頂いても構いませんが、生憎わたくしは一人だけしかお連れする事が出来ま
 せんので。場所は・・・飛影様がよくご存じの所ですよ。」

そう言うと、と共に霧の中に消えてしまった。


ーーー!!!

ようやく身体を動かせるようになった飛影は悲鳴のように彼女の名を呼んだ。

「クソッ・・・何をやっているんだ俺は・・・」

強い、強すぎる。今の自分には到底太刀打ちが出来ない。いや以前の自分でもどうだったか

わからない・・・


無力感にさいなまれている時、音信不通だった蔵馬が戻ってきた。事情を聞いた蔵馬は合点がいく

ような顔をした。

「もしかしたら、その男の言っている場所は例の”死の峡谷”かもしれませんね。」

「死の峡谷・・・?」

情報を求め魔界を彷徨っていた蔵馬は、死の峡谷にも寄った。その時あの古文書に似た妖気を

僅かだが感じていた。飛影が記憶を失った場所。そこに、何の関係が?

「そう言えば・・・」

蔵馬に言われるまで気が付かなかったが、初めて古文書を見た時、同じような妖気を知っている

ような気がしたのを思い出した。

飛影と蔵馬は頷きあい、魔界へと向かった。






8話へ



戻る