『いつか、此の海で』 〜第9話〜




を連れて消えた男の後を追うように、飛影は結界の外の蔵馬と共に

人間界のの家に戻ると、彼女一人、深刻な顔で飛影達を待っていた。

飛影と彼女は暫く顔を見つめ合っていた。


「話は全部聞こえていたわ。」

「・・・すまない・・・こんな事に巻き込んでしまって。」

「別に、飛影のせいじゃない。」

「こんな状況だ。結婚を・・・その・・・承諾して欲しい。」

「それは・・・出来ない・・・」

「生きる為だ!後はどうとでもなる筈だ!」



は首を横に振り、解読した古文書の説明を始めた。

「あの古文書に書かれていた事は・・・」


古文書には族長の後を継ぐ為の事柄が書かれていた。

長となる者はそれ相応の力が必要なのは勿論の事、子孫を作る力がなくてはならない。

その為にはそれを産み出すもの、つまり花嫁が必要となってくる。花嫁は代々赤い石が

認めると共に族長候補が認めた者だけしかなれない。条件が揃えば、次の族長となる。



「なら、問題ないじゃないか。俺が族長になれば・・・」

「話は最後まで聞いて。」


新しい族長になった時、その精神は赤い石に取り込まれ、身体には赤い石と同化した魂が

入り込む。新しい族長が必要な理由は、古くなっていく肉体を取り替えて、永遠に赤い石と

同化した魂を残すためである。


「身体は飛影のままでも、中身は赤い石の精神になるのよ!」


話を聞き終えた飛影は、小さく笑ってに言った。


「俺が例えそうなったとしても、は無事なんだろ?それなら俺は構わん。」

「わたし・・わたし・・・飛影が飛影でなくなるなんて!そんなの絶対にイヤ!!」


は声を押し殺し泣き始め、飛影は自分の胸に静かに抱き寄せた。


の泣き声がおさまってきた時、それまで何も言わなかった蔵馬が一枚の紙切れを取り出した。

結界に入る事が出来なかった蔵馬は、何かの手掛かりがないかと周辺を探っていて、その時に

見つけた物だった。


「オレには白紙のように見えますが、あの古文書と似た妖気を感じます。何か手掛かりがあれば。」


は泣き腫らした目で蔵馬の差し出した紙を見た。


「これ・・、あの古文書と同じ文字だわ。そう言えば、最後のページがちぎれているような跡が
 あった。解読してみます。」

紙の解読を始めたを、飛影と蔵馬は見守っていた。数時間後、解読が終わった。


「花嫁として認められた女性を、赤い石から解放する方法が書いてあるみたい。」

「命を犠牲にせずにか?」

「うん。」

「その方法は?!」

「額に埋め込まれた赤い石の欠片だけを壊す事・・・。」


蔵馬はの額の石を注意深く調べた。その結果・・・。


「この石は、かなりの硬度があります。ちょっとやそっとの力では破壊するのは無理ですね。

 最強の力と、最強の妖力を伴った力が必要だ。今の飛影やオレの力では無理そうだ。」

「蔵馬、キサマ!いい加減な事を!」

「落ち着いて下さい、飛影。可能性はあります。1つだけ・・・」

「何だ?!」

「どんなものでも弱点はあります。この石は唯一魔界の炎に弱い成分を持っています。
 といっても通常の魔界の炎では傷1つつけられない。最強の魔界の炎・・・
 飛影の黒龍波なら可能性はあるかもしれない。」


黒龍波・・・。魔界の炎の技の中では最強と言われている技。伝説化され、今では飛影だけしか

使う事ができない技。しかしその飛影も、今は妖力が落ちそんな大技は使えない状態だ。

追い打ちをかけるように蔵馬は言った。


「黒龍波と言っても、飛影の最強レベルじゃないとダメです。それだけじゃない・・・。
 細心のコントロールも必要です。」


確かに最強の黒龍波は石を砕くかもしれないが、同時にの身体にもダメージを与える。

普通に考えれば、人間の身体など跡形もなく消えてしまうほどのパワーだ。

わずか1センチ角の石にのみ黒龍波を撃たないと死ぬ事になる。


「1ミリでも逸れてはダメです。そして突き抜けてもダメだ。飛影に出来ますか?」


蔵馬は値踏みするように飛影を厳しい目で見つめた。


「当たり前だ!!”好きな女”一人守れなくてどうするんだ!」


「飛影・・・?!」


勢い余って言った言葉が、愛の告白となってしまったようだ。

蔵馬は飛影の決意をニヤリと聞きながら真っ赤になった二人を残し、部屋を出ていった。







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