「妖魔の印」 の章

  双 龍 (二匹の龍)・・その1
「うんざりだ・・・・先に戻るぞ。」 
パトロールに出ていた飛影は仲間にそう言って、移動要塞百足へ戻っていった。

          ------------------------------------

「貴様!何奴だ!」 百足から飛び出してきた時雨に覆面をした小柄な妖怪が、

声を荒げて言った。  「躯を出せ!!」

「女か・・・?躯様は煙鬼の所へ行って、今はおられん。」

「隠し立てするつもりか?なら、おまえからだっっっ!」

女はそう言うと、時雨に短剣を投げつけてきた。時雨は女の攻撃を受けながらも、何とか燐火円礫刀で

応酬したが、女は素早い身のこなしでそれをかわしていった。

「ただ者ではないな。このままでは、こちらが不利だ。」 時雨がそう思った時、飛影が戻ってきた。

「何事だ!」 飛影の姿を見た女妖怪は驚き、一瞬動きが止まってしまった。その隙に時雨の刀が女の

右腕を深くえぐった。 袖から血が滲み出て、破れた袖の間から、腕にきつく巻かれた包帯がほどけて

いくのが見えた。

「まさかっ!」 女の覆面の額から鋭い光を感じた飛影は、とっさに彼の額と右手の呪帯をはぎとった。

その瞬間!! 二人の右腕から黒龍がとき放たれた。押さえつけられたエネルギーを一気に発散させる

かのように、二匹の龍は雄叫びをあげながら暴れ狂った。二匹の龍は気が済むまで暴れた後、お互いを

敵として認め合い、激しくぶつかり合った。

「飛影以外にも黒龍波を使える奴がいたとは・・・」 時雨は呆然と見ていた。

どちらも一歩も引かず、押し合い続けた。 「互角か。このままではあまり長く保たん。」飛影が思った時、

女は時雨に斬られた右腕に激痛を感じたのか、妖気をゆるめてしまった。その瞬間を待っていたかの様に

飛影の黒龍は激しく攻め込んだ。

破られた黒龍波は術師にはね返る。女は自らが放った黒龍と、飛影の黒龍にはねとばされてしまった。

飛影と時雨は女がはねとばされた方へ走っていき、覆面がとれた女の素顔を見た飛影は驚いた。

「瑠紅(るく)・・・」 妖気を使い果たし、体から力が抜けていくのを感じた飛影は、「こいつの手当を頼む」

と時雨に言って、冬眠に入っていった。
next 目次へ