「妖魔の印」 の章

  双 龍 (二匹の龍)・・2
瑠紅(ルク)・・・お前と会ったのは、いつの事だっただろうか・・・・

そう・・・確か、俺が氷河の国を探して、流浪の旅をしていた頃だった。

俺は氷河の国と氷涙石、この二つを探すため、ある妖怪と行動を共にしていた。

名前すら覚えてないが、狡賢い目をした奴だった。たいした妖力も持っていなかったが、情報網だけはやたら多く

探し物を見つけるには便利だと思ったからだ。


ある夜、俺達は山奥で嵐に遭った。魔界の嵐は凄まじく、偶然見つけた小さな村で嵐が過ぎるのを待った。

村には長老様と呼ばれている老人と、多くの小さな子供達、そして俺と同年代の娘、瑠紅が住んでいた。よく見ると

この村の子供達は、誰一人として、同じ種族の者がいなかった。俺の疑問を察したのか瑠紅が説明してくれた。

瑠紅が言うには、親を亡くしたり、捨てられた子供達を長老が引き取って育てているという事らしい。理由はどうあ

れ、俺と同じ境遇の奴らだ・・・だが、俺には関係ない、そう思った。

嵐はなかなかおさまらず、この村に数日とどまる事になった。年が近く親しみを感じるのか、瑠紅はよく話しかけては

よく笑った。いつも純粋な笑顔で。 

「忌子、飛影・・」 魔界13層北東部では、かなり恐れられていた存在で、大概の奴は恐怖におののいた目か、

血に飢えた目でしか俺を見なかった。俺はあいつの心からの笑顔に、正直、とまどった・・・・

ある時、瑠紅が言った。 「飛影は何故あの妖怪と一緒にいるの?」  「何故そんな事を聞く。」

「あなたはとても澄んだ目をしているのに、あの人は何を考えてるか分からない、不気味な目をしているわ。二人が

仲間だなんて、ちょっと信じられない。」   「探し物をするのにあいつの情報網は便利だからな。それに、あいつと

俺は所詮同じ穴の狢さ。」 探し物をしているなどと、誰にも言った事がなかったし、言うつもりもなかったが、瑠紅の

笑顔を見ていると素直な気持ちになった。

長老は人の良い老人だった。 「こんな山奥に籠もって何をしているんだ?」 別に興味があった訳ではなく、暇の

ついでに聞いただけだったが、長老から意外な答えが返ってきた。

「わしはここで妖魔の印を守っておるのじゃ」  「妖魔の印?」  「さよう。持つ者の妖力を極限にまで高めてくれる

という魔力を持つ印じゃ。使い方を間違えれば魔界を破滅に追いやる程の力を持つという。わしはこの印を使うのに

真にふさわしい者が現れるまで、この地で妖魔の印を守っておるのじゃ。」  「何故俺にそんな事を教えるのだ?

俺にそんな事をしゃべったら危険じゃないのか?」     「大勢の妖怪がこの印を狙ってやって来た。じゃが、

わしの結界は誰にも破られん。もしわしが死んでも千年は結界が解けんからのう。それに、わしは飛影、あんたを

信用しておる。あんたはいい目をしておる。」 そう言って、長老は微笑んでいた。

妖魔の印に興味がわかなかった訳ではないが、長老とのやりとりを不安気に見ていた瑠紅の顔を見て、無理矢理

奪い取ろうという気になれなかった。それまでの俺からは考えられない事だった。

連れの奴にはこの話は絶対にするなと言って、俺はその場を離れた。奴が知れば、どんな事をしてでも自分の物に

しようとするのは分かっていたからだ。
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