「妖魔の印」 の章

  双 龍 (二匹の龍)・・3
翌朝、嵐は過ぎ去り、魔界では珍しく快晴となり、かえって不吉に感じた。

何か言いたそうな瑠紅の視線を振り払うように、俺達は村を出た。

村を出て少ししてから、忘れ物をしたから先に行っててくれとと言い、奴が村へ戻って行った。

奴がなかなか戻らないのに胸騒ぎを感じ、俺は村へと急いだ。

村では子供達がしばられ、その目前で血まみれになった長老が息絶えていた。

「見つかったらしょうがない」 ニヤッと笑った奴の血まみれの手には妖魔の印が握られていた。

「何故、妖魔の印の事を知っている?」 

「ほぉぅ、この村に来た目的がこの”印”だと、飛影も知っていたのか?さすがだなぁ」

「違う!俺はきのう長老からその印の事を聞いただけだ。」

「そうか。だが、俺は違うぞ。この印を頂くために嵐を利用してこの村にきたのさ。それ位は調べてある」 

嵐のため、この村に滞在したのは偶然ではなかったのか・・・それに気づかなかった自分に無性に腹がったった。

「長老が死んでも千年は結界が解けないと言っていたが、どうして結界をといたのだ」 俺の疑問に奴は答えた。

「簡単な事さ。 結界師自ら結界を解けばいい事だ。ガキを人質に取ってちょっと脅せば、長老の野郎、

簡単に結界を解きやがった。 あのじじい、生きる価値もねぇガキ共のために馬鹿な野郎だぜ」

俺は奴の話を不快に感じた。

「オイオイ、飛影。そう怒るなよ。お前ぇに黙っていたのは謝るからよ。でも、わかってくれるだろ?お前ぇと俺は同じ穴の

ムジナだもんなぁ」

・・・そう、俺と奴は所詮同じ穴のムジナ。極悪非道さではいい勝負だった。だが・・・・・・・・・・


何も言わない俺をチラッと見て、奴は恐怖で怯えている瑠紅(ルク)に鋭い爪を突きつけてこういった。

「妖魔の印は手に入ったし、あんたにゃ恨みもねぇけど、用心に越した事はねぇ。あんたも死んでもらうぜ。心配するな、

ガキ共も後から同じ所へ連れてってやるからよぉ。 なぁ、飛影。」

その言葉を聞いた瞬間、俺の剣は奴を切り裂いていた。 同類の奴を・・・・

今までの俺なら、奴と同じ事をしていたに違いない。 だが、どうしても許せなかった。

俺は自分自身の心の変化にとまどいを感じていた。


子供達が泣き続けてる中、気丈にも平常心を装っている瑠紅に 「これからどうするつもりだ?」と聞いた。

彼女は「長老様の結界がなくなれば、妖魔の印を狙う妖怪達が襲いにくるでしょう。ここにはもういられない」と言った。

戦う術をしらない者が無事に生きていけるほど魔界は甘くない。

・・・・俺と一緒に来るか・・・?

喉の奥まで出かかったが、口には出さなかった。いや、出せなかったのだ。

俺がそれまでやってきた極悪非道な世界に、あいつらを引き込むわけにはいかない・・・・そう、思った。

「西に行けば、戦いを好まず平和に暮らしている地方があると聞いた事があります。取りあえず、そこを目指します」

当てがあるわけでもない。ましてや足手まといになる子供達を連れての旅だ。だが、瑠紅にはそれ以外の選択肢は

考えられなかったのだろう。

「過酷な旅だぞ」

「大丈夫。長老様の守っていたこの妖魔の印が、きっと私たちを守ってくれるわ!」

そう言うと、瑠紅は微笑んだ。その笑顔も、いや、その姿さえも、もう見る事は出来ないかもしれない。

一緒に来い と言えなかった事を、ずっと後悔していたのだった。
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