「妖魔の印」の章

氷泪石の秘密 第5話


「その子の言うとおりです。」

いつからいたのか、一人の氷女が立っていた。

「なんだ、あんたは?むざむざ俺に、殺されに来たのか?」

「殺されても仕方ないかも知れませんね。」

氷女は淋しそうに呟いた。

「私は、あなたと同じ母を持つもの・・・つまり姉弟です。」


一瞬、久遠の顔に戸惑いが見られた。



「母はある男性と恋に落ち、身ごもりました。産まれてくる子は忌み子

 として氷河の国から捨てられる事もわかっていました。そして、自分

 の死も・・・。産まない選択も出来ました。そうすれば自分の命を落

 とす事もない。でも、母はあえてあなたを産む決心をしました。愛し

 た人と過ごした証である命を絶つ事が出来なかったのです。氷河の国

 から出ていく事も考えたようですが、我が寿命を考えると、下界へ逃

 げても子供を守りきれない。それで、一人娘の私に、せめて危険が少

 ない場所へ落とすように言い残したのです。母があなたに残した氷泪

 石は他のどの氷泪石よりも愛が籠もっていると感じられました。この

 氷泪石ならあなたを必ず守ってくれると・・・。

 私は孤児を育てているという村の近くにあなたを落とし、その後も、

 出来る限りあなたの様子を見ていました。」



「何故だ?」



「私に残された、たった一人の肉親だからです。」



「貴様も、氷河の国のつまらん掟の犠牲者だと言う事か?」

  (そして雪菜も・・・・。)飛影は言った。



「つまらない掟・・・そうですね。

 氷河の国から下界に捨てられ生き残っている子供達を見ていると、疑問

 を感じました。 氷女と異種族との間に産まれた子、つまり忌み子は本

 当に凶暴な性格の持ち主なのか、過去に凶暴な者がいたのは事実ですが、

 皆が本当にそうなのか・・・。

 そんな疑問を持った数人の氷女達で色々調べてみました。」



「それで何かわかったのか?」 飛影が聞いた。



「元々凶暴に産まれてきた子はほんの僅か。魔界では珍しくない確率です。

 それ以外の子は、産まれながらにして母の命を奪った子として、周りから

 さげすまされ、環境によってすさんだ性格になってしまったようなのです。

 その証拠に、あなた達は優しい子。そして久遠、あなたも本当は心優しい

 子です。」



「だが・・・

 だが、俺達が忌み子としてこの国から捨てられたのは事実だ。俺は旅をし

 ている間、同じ様な忌み子が数多く存在している事を知った。そして、そ

 いつらの苦労も。それを、空の上からのうのうと、調査か何かしらんが、

 そんなきれい事はたくさんだ。俺は忌み子を代表して、この国を滅ぼす!」



それまで黙っていた久遠は、激しく言い放った。



「ええ、本当にそうですね。私達がした事は、許される事ではありませんね。」



そう言って氷女は涙を一粒流した。涙は頬をつたわり、氷泪石に結晶して久遠

の足下に転がっていった。







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