「妖魔の印」の章

   (ご注意! この話は 「双龍」 の続きです。)


氷泪石の秘密 第1話


第2回の魔界トーナメントが終わった。優勝者は前回に引き続き煙鬼であった。

くじ運がいいのか、本当の実力なのか、とにかく煙鬼が優勝した。煙鬼が公布

した法は前回同様のものであった。要塞百足に戻った躯の部下達は、一様に

うんざりした顔をしていた。それを見て躯は「もし俺が優勝しても、煙鬼と

同じ事をしただろう。そんな顔をしているお前たちも、実際の所そうするんじゃ

ないのか?」とまんざらでもない様子であった。飛影も単調なパトロールには

ウンザリしていたが、今の平穏な魔界が嫌いではなかった。


飛影には1つ、気がかりな事があった。次のトーナメントでは飛影を必ず倒すと

言っていた瑠紅が参加しなかったのだ。彼女との再会をはたした後、飛影は

彼女と村の様子を時々見に行っていた。その度に「飛影には絶対負けないわよ」

と笑っていたのだが・・・・。何かあったのだろうか?


  注 瑠紅(ルク)・・・飛影同様、黒龍波の使い手。孤児達を育てていた長老に代わって
     妖力を極限に高めると言われる『妖魔の印』を守っている女妖怪。



その夜、一人の少年が飛影を訪ねてきた。見覚えのある少年。瑠紅の村にいた

孤児の一人で名前はたしか・・・・

「あのぉ・・。僕は・・・瑠紅姉さんと同じ村の・・真於(マオ)です。」

あぁ、そうだ。いつも瑠紅が「覚えが悪くて」と言いながらも、「この子を見て

いると優しい気持ちになるの。」と特に目をかけていた少年だ。そいつが何故?

よく見ると、身体に無数の傷があり、かなり疲れた様子であった。


唐突に真於は叫んだ。

「飛影さん!!お願いします!!瑠紅姉さんを助けてください!!」

彼は興奮して事情を上手く話せない様子であった。飛影は傷の手当てをしてやり

暖かい飲み物を飲ませて落ち着かせ、詳しい話を聞く事にした。


数ヶ月前から(つまり魔界トーナメントが始まった頃だ)、見知らぬ男が村の様子

をかぎ回っていた。それまでにも「妖魔の印」を狙ってくる妖怪はいたが、瑠紅の

敵ではなかった。だが、その男はかなりの妖力を持っているようで、村中が警戒を

していた。そんなある日、そいつは「妖魔の印をよこせ。」と言って、村へ侵入し

てきた。瑠紅は、妖魔の印を持って村を出れば男は自分を追い、村への被害は最小

限に押さえられると判断した。その時、たまたま側にいた真於に 「飛影に助けを

頼んで。」 と言い残し妖黒山へ向かった。案の定、男は瑠紅を追いそのまま二人

の行方はわからなくなってしまった。


話を聞いた飛影が言った。

「瑠紅の事は俺が何とかしてやる。貴様は村へ戻っていろ。」

「お願いします。僕も連れて行って下さい。」

「貴様がついてくれば、かえって足手まといになる。」

冷たい言い方であったが、事実である。

「わかっています。でも、僕はどうしても姉さんを助けたいんです。姉さん達が向か

 った妖黒山は、山自身が特殊な妖気を放ち、飛影さんの邪眼すら効かないような所

 なんです。それに山の中も迷路のようで、慣れている者がいないとすぐに道に迷っ

 てしまいます。飛影さんの邪魔は絶対しません!だから、連れて行って下さい!!」

引き下がる気がない真於の訴えに

「勝手にしろ・・・」

と言わざるを得なかった。





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