冬のある日4 (作・安奈さん)




なんだろう、この匂い…
そう思って起きると、目の前が真っ赤だった。
「なに、これ?」
一瞬状況が判断できなくて、呆けたようにその赤を見つめていた。
「あ!」
その赤がなんなのか、判った途端に頭がはっきりした。
これは…これは…
私が飛影の為に縫ったはんてん! 間近で見るとヘタクソな縫い目がはっきりわかる。

「フン、ようやく起きたか」
私の気配に気付いたのか、飛影がこちらを振り向いた。
「嫌な予感がして戻って見れば案の定…あやうくうどんが焦げるところだぞ」
そう言う飛影の手には、しっかりと一人用の土鍋が握られていた。
傍らには、製氷皿…
「…ごめん」
「ゴメンですめばケイサツとやらはいらん」
どこで覚えたのよそんな言葉…。
「それより飛影…帰ったんじゃなかったの?」
てっきりあのまま魔界へ帰ってしまったと思っていた。
だから戻って来てくれてすごく嬉しいのに…
「なんだ、オレが来たら迷惑か?」
これだ・・・
「そんな事言ってないじゃない」
こういう奴だとわかってはいても、やっぱり腹は立つ。

「…すまん」
そんな私に掛けられた、思ってもみなかった言葉。
思わず飛影に向けて放とうとしてた文句を、口の中に呑みこんだ。

「え…あ…ひ、えい?」
その私になにも言わず、ただ握り締めてくしゃくしゃになった紙を寄越した。
「え、なにこれ?」
開いてみると、それは駅前にある旅行会社のパンフレットだった。
表紙には、「ふたりで行く 秘湯めぐりの旅」という文字。
「飛影…これ…」
困惑と嬉しさで複雑な表情を浮かべている私から視線だけを逸らすと、
「キサマが記念日がしたいと言うからだ」
怒ったようにそう言った。

一体どこでそんな知識を仕入れてきたのか。なにより気が変わったのは何故か。
訊きたい事は幾つもあったけど、私は何も言わず、飛影に抱き付いた。
ほんのりお酒の匂いがする…。

「…その日があったから、今日があるんだしな」
私を抱きしめたまま、ふと呟いた飛影の言葉…。
誰かの受け売りだとしても(その可能性はかなり高いけど)、
飛影がそんな事を言うなんて…
「そうね。そして大事なのは、その日から新たに始まる私達のこれからなのよね…」
私の言葉に、飛影がにやりと笑って頷いた。










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