冬のある日4 (作・むくむく)




焦げくささを感じては目を覚ました。

「あっ!やだっ、お鍋!」

慌てて台所へ行くと、鍋のつゆは蒸発し中のうどんが焦げ始めていた。

「もうちょっとで、火事になるところだった・・・。」

火を止めた手が震え、足もガクガクしてその場にへたり込んでしまった。




消防車が向かっていったのは、の住まいがある方角だった。

まさかとは思いつつ、不安に駆り立てられて消防車の行く方へと走り出した。

しかし火元は別の場所でボヤ程度のものだった。飛影はホッとした。走ったせいで暑くなりはん

てんを脱ごうとした時、ポケットから旅行のパンフレットが落ちてきた。蛍子の言葉で何となく

持ち帰ったのだが、今の自分に旅行など行ってる時間はない。魔界でゴタゴタが起きており、

明日、遅くとも明後日には魔界へ戻らなければならない。本当なら人間界に来ている場合ではな

かったのだが、の側に居てやりたいと無理をして来たのだ。


(こんなパンフレットを見せても、ぬか喜びをさせるだけだ。)


飛影はパンフレットを拾わず、の家に戻った。




部屋に入ると、きな臭い臭いが充満していた。そして台所ではが青い顔で座り込んでいた。


!!どうしたんだ?何かあったのか?」

「ちょっとお鍋焦がしちゃった。」


飛影の顔をみて、少し落ち着いたは苦笑いしながら言った。

飛影は、焦げた鍋をチラリと見ると大声で言った。


「どこがちょっとだ!もう少しで火事になるところじゃないか!!さっきも近くでボヤが

 あったばかりだ!一体何をしてたんだ!」

「・・・ちょっと・・・ウトウトして・・・」

「馬鹿か!火事がどんなに恐ろしいのか、わからんのか!!」

「馬鹿って・・・。そんな言い方ないじゃない!私だって反省してるんだから!」

「馬鹿じゃなきゃ、大バカだ!!!」

「何よ飛影ったら。人の事バカバカって・・・。もういいわよ、ここから出ていって!!」



本当に出ていって欲しかった訳じゃない。さっきの悔しさと悲しさが爆発して思わず出た言葉。

こんな事を言ったら飛影はまた出ていく。後悔したがもう遅い。の目から涙が溢れてきた。

しかし、意外にも飛影はへたりこんだままのの前にしゃがみ、そっと指で涙を拭ってくれた。



「・・・飛影・・・?」

「馬鹿を一人で放って置く訳にはいかんからな。」


の手を取り自分の方に引き寄せようとした時、ふと思いついた。


「オイ、今から出かけるぞ!」

そう言うとの体を毛布でくるむと、軽々と抱き上げて窓から飛びだした。

外は冷え込みが激しく、雪がチラチラしはじめていた。

「ど、どこに行くの?!」

それには答えず、を抱いたままま山の方へと走って行った。どれくらい走ったのだろうか。

山は数日前からの寒波で雪が降り積もっていた。飛影は石の上の雪を払ってを座らせ、

自分も隣に座った。


「飛影?どういうつもり?」

「前に、雪を見に行きたいと言ってただろ。」

「でも、飛影は寒いところは厭だって・・・。」

「フン・・・・。」


それ以上、聞かなかった。魔界でもめ事が起こっている事は蛍子から何となく聞いていた。記念

日とか旅行とかそれどころじゃない事も分かっていた。無理をして人間界に来てくれたのだと思

う。よーく分かっていた。ただ、自分の知らない世界で彼に起こりうる危険を考えると、とてつ

もなく不安になり、あんな我が儘を言ってしまったのだ。は体をくるんでいた毛布を緩め、

その半分を飛影の肩にかけた。


「寒い・・・でしょ?」

「こうすれば、大丈夫だ。」


飛影は両手をの身体に回し、しっかりと抱き締めた。


「・・・な?」

「・・・うん、暖かい・・・。」


寒い季節の二人の記念日は、こうして忘れられない日となりました。









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